不規則抗体検査において、低温(20℃や4℃)での反応相で強く反応し、37℃相では反応しない抗体を冷式抗体といい、対応抗原が陽性の血液を輸血しても臨床的には無害と考えられています。日常検査で遭遇し、これらの性質を示す抗体には、抗I、抗IH(抗HIともいう)、抗H、抗P1、(抗M)、抗N、抗Lea、抗Lebなどが代表的な抗体です。このうち、抗I、抗HIは健常人でも保有し、4℃>室温>37℃の反応性を示す典型的な冷式抗体です。抗P1なども低温下で反応が強くなりますが、抗Leaや抗Mなどは時々37℃で反応する抗体もあります。
ABOのウラ検査や不規則抗体スクリーニングのSal(生理食塩液法)で、w+〜1+の予期せぬ反応が観察される場合があります。例えば、A型被検者のウラ検査でA1型赤血球に1+程度の凝集が認められたり、AB型被検者のウラ検査でA1型及びB型赤血球にw+〜1+の凝集が観察されたりする例です。不規則抗体スクリーニングで陰性と陽性がある場合は、血液型特異性を示す抗体(抗P1、抗M、抗Lea、抗Lebなど)が存在する場合もありますが、全て同じように反応した場合、これをどのように解釈するかに迷うところです。多くの場合は、冷式抗体の影響と考えて、37℃に加温し、消失すれば問題ない、と考えることが多いかと思います。輸血を前提に考えた場合は、これは極論的な方法であり、体温付近と同じ37℃で反応しなければ輸血上問題ないことは想像できると思います。但し、37℃に加温してもなかなか消失しない場合もあります(弱い反応のため、試験管を強く振って陰性と判断する場合もあるかもしれません)。従って、反応している抗体又は非特異的な反応の性状をもう一歩深堀りすることでよりはっきりされることが可能です。
そもそも、冷式抗体は、低温(4℃)で強く反応する抗体です。確かに37℃で弱くなる又は消失するため、37℃に加温するのも一つですが、冷式抗体であることを確認するには、やはり一旦4℃(5〜10分程度)静置後に遠心判定してみることです。室温レベルでw+〜1+の凝集が観察される冷式抗体であれば、4℃にしたら4+の凝集になります。これが変わらず1+〜2+程度なら、室温レベルで観察されたw+〜1+の凝集は冷式抗体ではなく、連銭形成のような血漿に由来する非特異反応の可能性もあります。また、血漿検体で検査を行っているのであれば、血清検体を使って再現性を見ることです。抗体であれば、同じような反応を示しますが、血漿のみ反応が出るようであれば、非特異反応も考慮すべきです(連銭形成は血漿検体の方が強く反応するため)。
(豆知識)抗Iの中には、A型赤血球と強く反応する抗AI、B型赤血球と強く反応する抗BIもあり、これらの抗体はO型よりもA型やB型赤血球と強く反応します。従って、抗体スクリーニング(O型)で陰性だから抗Iではないと決めつけるのもよくありません。被検者とABO同型とO型赤血球との反応性、自己赤血球の反応性、反応温度、凝集強度(ばらつき)を観察することは抗体同定の一助になります。
【参考ブログ】
・#076:非特異反応を軽減したPEG-IATの上手な使い方の(はてな?)
https://www.bloodgroup-tech.work/entry/2020/08/19/052035
・#104:ケーススタディー(Episode:04)冷式抗体は自己赤血球との反応がポイント(抗HI)
https://www.bloodgroup-tech.work/entry/2021/01/01/060632
・#011:冷式抗体保有時のABOウラ検査の(はてな?)
https://www.bloodgroup-tech.work/entry/2020/01/21/203910