血液型検査のサポートBlog

血液型検査(輸血検査)で生じる悩みや疑問(はてな?)をサポートする医療従事者向けのBlogです。

#172:輸血検査のマメ知識(自己抗体を同種赤血球で吸着除去する際の注意点)

 

 血漿(血清)に不規則抗体同定用パネル赤血球や交差適合試験で、3+以上に反応する温式自己抗体(以下、自己抗体)が存在する患者さんでは、通常、直接抗グロブリン試験(以下、DAT)も強陽性(3+以上)になっています。このような検体の抗体同定を行う際には、まずは同種抗体の混在を見極めることが最優先となります。過去の妊娠・輸血歴の確認をすることは必須ですが、自己抗体を除去した血漿(血清)を用いて、混在する同種抗体の混在を確認します。自己抗体にマスクされた同種抗体を検出するには、自己赤血球で自己抗体を吸着除去するのが一番ですが、DATが強陽性であるため、自己赤血球をEA(酸)処理などしてから使用する必要があること、赤血球沈渣が必要量確保できないなどの理由から、血液型が既知の同種赤血球(数種類)を用いて、別々に吸着操作を行い、その吸着上清から同種抗体の確認をする場合があります。例えば、被検者が同種抗E+自己抗体を保有していた場合は、R1R1型やrr型赤血球の吸着上清に抗Eの特異性が確認されます(特異性のない自己抗体は全ての赤血球で吸着されるため)。同様に抗Dia+自己抗体の場合はDi(a-)型の吸着上清から抗Diaの特異性を確認することが可能です。しかし、注意しなければならないこともあります。仮に抗Fya、抗Dibなどの同種抗体と自己抗体が存在した場合、通常吸着に用いる同種赤血球ではこれらの抗原(Fya、Dib)は高頻度抗原のため通常陽性となります。つまり、臨床的に重要な主要抗原(D,C,E,c,e,Fyb,Jka,Jkb,S,Diaなど)に対する同種抗体だけを意識して、同種赤血球で吸着操作を行うと、抗Fya、抗Dibなどは自己抗体と一緒に吸着除去され同種抗体はない、と誤った判断をしてしまうことがあります。この過ちを防ぐためには、被検者のタイピングを行い、抗Fya、抗Dibなどの同種抗体を保有する可能性があるか否かを見極めることです。つまり、被検者の血液型がFy(b-)であれば、Fy(a+b−)型と推定されるので、同種抗Fyaを保有する可能性はありません。同様にDi(a-)であれば、Di(a-b+)が推定されるので、抗Dibを保有する可能性は否定されます。逆を言えば、被検者がFy(b+)やDi(a+)の場合、同種抗体の抗Fybや抗Diaの保有は否定されますが、Fy(a-b+)やDi(a+b-)だった場合には抗Fya、抗Dibなどを保有する可能性があることは頭の片隅に入れておく必要があります。そもそもFy(a-b+)型やDi(a+b-)型はまれな血液型(表現型)なので、確率的には可能性は低いと思いますが、血液型タイピングからこのようなことを推測できるということです。従って、輸血前の血液を保存しておくことは予期せぬことが起こった時に解決の糸口になります。

 

【Keyword】#自己抗体 #吸着操作 #pan-reactiveな自己抗体

 

【参考Blog】

・#030:pan-reactiveな自己抗体の(はてな?)

https://www.bloodgroup-tech.work/entry/2020/03/11/060742

 

・#033:自己赤血球を用いた自己抗体吸着の(はてな?)

https://www.bloodgroup-tech.work/entry/2020/03/20/082513