血液型検査のサポートBlog

血液型検査(輸血検査)で生じる悩みや疑問(はてな?)をサポートする医療従事者向けのBlogです。

#011:冷式抗体保有時のABOウラ検査の(はてな?)

 不規則抗体検査において、食塩液法(室温)の即時判定で3+~4+の凝集が観察される場合は、ABO血液型のウラ検査にも影響を及ぼすため、正しく血液型判定が出来ない場合があります。その原因の多くは、低温反応性の冷式抗体が原因です。ここでは、冷式抗体保有時のABOウラ検査の(はてな?)についてシェアしたいと思います。

  通常、血液型抗原に対する抗体は、輸血や妊娠などの同種免疫を受けた個体が、自分の赤血球上に存在しない血液型抗原に対して抗体を産生します。これを同種抗体と言います(正確には免疫同種抗体ともいう)。しかし、免疫刺激がない個体においても、自己赤血球に抗原がない血液型に対する抗体を保有する場合があり、これを自然抗体といいます(輸血及び妊娠等の免疫刺激がなくても自然に抗体を持つという意味です)。自然抗体の多くは糖鎖抗原に対する抗体が多いのも特徴の一つです(Rh、Duffy、Kidd、Diegoなどの蛋白抗原に対する抗体は通常免疫を受けて抗体を産生する)。日常検査で検出される抗P1、抗Lea、抗Leb、抗M、抗Nなどはほぼ自然抗体です。また、自己赤血球の抗原(I抗原、H抗原)は陽性であるにも関わらず、冷式自己抗体として抗I又は抗HIなどを保有します。抗HIは、A型やAB型などの赤血球上にH抗原が少ない個体から検出される特徴があります。

 抗Leaと抗Mの一部は37℃相で反応を認めるIgM性抗体や間接抗グロブリン試験(IAT)で反応が認められるIgG性抗体の場合もありますが、それ以外の抗P1、抗Leb、抗N、抗I、抗HIは全てIgM性の抗体です。抗Iは寒冷凝集素とも呼ばれ、殆どのヒトの血漿(血清)中に存在します。その多くは4℃(低温)で反応するものですが、寒冷凝集素病などでは、室温(20~22℃)で128倍~256倍以上の抗体を保有する場合もあります(4℃では、抗体価が4,096倍以上になる場合もある)。

 食塩液法(室温)において3+~4+に反応する冷式抗体を保有した個体ではABOウラ検査において、血液型に関係なく凝集が起こるため、ウラ検査による血液型判定が出来ません。例えば、A型個体のウラ検査の場合、A型赤血球と3+、B型赤血球と4+となります。A型赤血球と反応しているのは不規則抗体、B型赤血球と反応しているのは規則抗体の抗B(又は抗B+不規則抗体の場合もあり)です。通常、ABOウラ検査は即時判定を行いますので、即時判定で3+以上の比較的強い凝集を呈する抗体は、抗P1、抗M、抗Leb、抗I、抗HI等が該当します(抗Leaなどはそれほど強い反応ではない、又抗Nは殆ど検出されることはない)。ウラ検査用の赤血球はA抗原又はB抗原のみ存在しているワケではないため、このように低温反応性の不規則抗体が存在した場合には影響を受けます。抗M保有者の場合は、ウラ検査用赤血球のM抗原が陽性であればABO型に関係なく凝集が起こるということです。

 抗P1、抗M、抗Lebなどを保有している場合は、対応抗原が陰性のウラ検査用赤血球を使用すれば、理論的には、これらの抗体に干渉されることなくABOウラ判定が可能です。しかし、抗Iや抗HIの場合は、ほぼ全ての赤血球と凝集が起こるため、吸着操作によって除去した血漿(血清)を用いてABO血液型のウラ検査を行う必要があります。また、抗Iや抗HI以外に混在する抗体を検出する場合には、ブロードに反応する抗I(又は抗HI)を除去しなければ特異性のある抗体の検出が出来ません。

 抗I、抗HIを吸着除去する場合は、以下の手順で行うことが出来ます。但し、吸着操作を行う場合は、事前に抗体価(室温及び4℃)を測定することがポイントです。その理由は、抗体価によって吸着する回数が異なるためです。強い抗体保有の場合は、2~3回の吸着操作及び4℃などで吸着するなどの工夫が必要になるためです。生食法で3+~4+程度(抗体価で8倍~16倍程度)の場合は、1回の吸着操作でほぼ吸着されます。

 

【自己赤血球を用いた冷式自己抗体(抗I又は抗HI)の吸着操作】

・EDTA採血した自己赤血球を洗浄し、その沈渣1mLを別の試験管に分取する。

・酵素(1%ficin又は0.5%ブロメリン溶液)を等量加える。

・37℃で10~15分加温し、自己赤血球を酵素処理する。

・PBS又は生理食塩液を加えて遠心し、上清を除去する(数回繰り返す)。

・最終洗浄後、上清を除去する。

・被検者血漿(又は血清)を1mL加える。

・室温(20~25℃)で30分程度静置し、冷式自己抗体の吸着を行う。

・3,000回転で5分間遠心し、上清を別の試験管に分取する。

・ABOウラ検査を実施するため、試験管を準備する。

・ウラ検査用A型、B型赤血球と自己赤血球及びO型赤血球との反応を見る。

・自己赤血球及びO型赤血球との反応が陰性であれば、抗I又は抗HIは除去されたと解釈し、A型、B型赤血球との反応性からABO型を判定する。

 

(補足)自己赤血球の代わりにO型赤血球を用いて同様の操作を行うことが可能ですが、その際には、被検者とLewis、P1などの抗原が同じタイプの赤血球を使用する必要があります。その理由は、抗I(抗HI)の他に抗M、抗P1、抗Lea等が混在していた場合に自己赤血球を用いた場合は、混在する抗体は吸着されません(自己赤血球が陰性のため)が、ランダムの同種赤血球を使用する場合は、抗I(抗HI)と一緒に吸着されてしまう可能性があるためです。なお、M抗原を合わせる必要がないのは、吸着に用いる赤血球を酵素処理することでM抗原が人工的に破壊されるため、仮に抗Mが混在していても上清から検出可能であるためです。