血液型検査のサポートBlog

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#104:ケーススタディー(Episode:04)冷式抗体で全て陽性の場合はO型vs同型の反応がポイント(抗HI)

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 LISS-IATやPEG-IATでパネル赤血球と全て弱陽性に反応するような検体に遭遇した場合は、まずはその反応が臨床的意義あるIgG性の同種抗体によるものかを見極める必要があります。自己対照赤血球が陽性の場合は抗赤血球自己抗体の可能性を考えますが、自己赤血球が陰性の場合は同種抗体(又は自然抗体)の可能性が高いことになります。同種抗体を産生するのは妊娠歴又は輸血歴があることが前提となりますので、まずは被検者の情報を確認することが最初に行うべきことです。この例では被検者は輸血歴のない男性です。従って、LISS-IATやPEG-IATで反応しているのはIgG性の抗体ではない可能性が示唆されます。こういった反応は、少し強い冷式抗体があった場合に持ち越し現象によって間接抗グロブリン試験で反応している可能性があります(60分加温-IATでは陰性であることもヒントになる)。また、特異性がなくブロードに反応していることから抗I又は抗HIなどの可能性が高いと考えます。こういった場合は、低温での反応を観察することです。

 

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 Sal法(室温)を実施したところ、2+~3+を示し、4℃に落とすと4+に増強し、37℃では陰性となります。この反応は冷式抗体の特徴です。次は抗体の特異性です。パネル赤血球はO型であることから、O型 vs 被検者とABO同型(A型)赤血球との反応の観察、I抗原が陽性赤血球(成人赤血球はI+型) vs i型赤血球(臍帯赤血球又はAdult-i)の反応性を観察し、抗Iと抗HIの鑑別を行います。Adult-i赤血球や臍帯赤血球の入手は困難な場合がありますが、O型 vs 被検者とABO同型赤血球との反応を観察することは可能です。ざっくり言うとO型赤血球と強く反応するのが抗HIであり、O型とABO同型が同程度に反応するのが抗Iです(自己対照も陽性となる)。どちらもAdult-iや臍帯血液(cord-i)とは反応しません。また、抗HIはA型又はAB型個体から多く検出されます

 抗HIも抗Iも本質的にはIgM性の抗体です。臨床的意義のあるIgG性の抗体を検出するためには、冷式抗体の干渉(影響)を受けにくい60分加温-IATで判断するのも一つの手ですが、もう少し感度を上げて検査を実施したい場合は、①IgM性の冷式抗体を吸着除去してからSal法又は間接抗グロブリン試験を実施する。②10mM DTTで血清を処理(IgM性抗体の破壊)後の血清でLISS-IAT又はPEG-IATを実施します。抗Iの場合は自己赤血球で吸着しますが、抗HIの場合はO型と強く反応する性質があることから、主な血液型(表現型)が同じO型赤血球で吸着操作を行うことで、抗HIのみを吸着除去することが可能です。また、酵素処理した赤血球で吸着することで吸着効率が上がります。

抗HI保有の場合は、通常交差適合試験では陰性となります(輸血はABO同型であるため)。従って、全て反応する抗体の場合は被検者とABO同型赤血球との反応を観察しておくことも解決の糸口となります。

 また、抗HIということがある程度予測された場合には、実施すべきことがもう一つあります。それは被検者のH抗原が陽性であることを確認することです。稀に抗HI保有者の中には、para-Bombay型が紛れている場合もあります。従って、抗Hレクチン(Ulexレクチン)の反応を観察すること、抗A又は抗BでA又はB抗原が低下していないことを確認することでpara-Bombay型の見逃しを防ぐことができます。

 

【関連blog】

・#010:冷式抗体の性状に関する(はてな?)↓↓↓

https://www.bloodgroup-tech.work/entry/2020/01/19/083655

 

・#025:Bombay型、para-Bombay型の(はてな?)↓↓↓

https://www.bloodgroup-tech.work/entry/2020/02/25/063015

 

 ・#029:抗I、抗HI保有者のABOウラ検査の(はてな?)↓↓↓

https://www.bloodgroup-tech.work/entry/2020/03/08/062135