通常、直接抗グロブリン試験が陽性で、パネル赤血球や交差適合試験ですべて陽性になる血漿(血清)では、多くの場合、抗赤血球自己抗体(以下、自己抗体)の存在を疑い検査を進めます。自己抗体にマスクされた同種抗体の存在を明らかにするため、過去3ヶ月以内に輸血歴がない患者さんで、ある程度赤血球沈渣が確保できる場合は、自己赤血球で血漿(血清)中の自己抗体を吸着除去し、吸着後上清を用いて混在する同種抗体の検出を最優先に検査を進めます。自己赤血球で自己抗体を吸着除去する場合には、DATの強さで多少対応が異なりますが、DATが強陽性(4+)の場合には、一旦、EA(酸)解離などを行い、DATを陰性又は弱陽性化した自己赤血球で吸着操作を行います。このような赤血球で吸着操作を行った場合、吸着上清とパネル赤血球との反応が陰性になれば、反応していた抗体は自己抗体のみで同種抗体の混在はなしと判断するのが通常のパターンです。しかし、時々、吸着上清の反応がすべての赤血球と2+程度に反応(吸着前とあまり変化なし)し、判断に迷う場合があります。
DATが陽性で全ての赤血球と反応する=自己抗体のみと決めつけず、もう少し広く考えを持つ必要があります。まずは、自己抗体とは?・・・「自己抗体とは、自己赤血球を含む全ての同種赤血球と反応する抗体」です。従って、自己抗体と考えられた抗体が自己赤血球で吸着されない理由として考えることは、①自己抗体の抗体価が高いため、一回の吸着で自己抗体が全て吸着されない、②吸着に用いた自己赤血球のDATが強く、自己抗体が全て吸着されなかった、③自己抗体の他に複数の同種抗体が混在し、吸着上清ではそれらの抗体が反応した。④自己抗体とともにHTLAの性質を示す高頻度抗原に対する抗体が混在していたため、自己抗体は吸着されたがHTLA抗体が吸着されずに残った、⑤赤血球抗体以外のγグロブリン等(M蛋白等の影響)が吸着されずに吸着上清中に残り、それが反応した。レアな例を除けば、①〜⑤のいずれかの要因によって吸着がかからない、といった現象が起こってきます。つまり、自己抗体と考えられる抗体が自己赤血球で吸着されていないワケではなく、自己抗体は吸着除去されるが、それ以外の要因で吸着した上清が一見吸着がかかっていないように見えているということです。
このようなケースでは、まずは血漿(血清)とパネル赤血球の凝集強度vs 自己対照の凝集強度を観察すること(自己抗体のみであれば自己対照が一番強く反応する:既にDAT陽性のためさらに抗体が結合し強くなる)、被検者血漿(血清)をPBSで2倍程度に希釈して吸着を行ってみること、DAT陰性化した自己赤血球と同種赤血球で吸着操作を行い、その上清を比較すること、などを追加検査として実施し、総合的に解釈する必要があります。吸着操作を実施する前には必ず抗体価を測定し、吸着回数を想定することも大事です。また、M蛋白などを産生する可能性のある患者背景があるか否かを調べておくことも赤血球抗体以外による要因を特定する手がかりとなります。
【Keyword】#自己抗体 #吸着操作 #HTLA抗体
【参考Blog】
・#125:ケーススタディー(Episode:25)自己抗体に混在した抗Jraの同定
https://www.bloodgroup-tech.work/entry/2021/04/11/194105
・#132:ケーススタディー(Episode:32)血中免疫グロブリン量増加の影響によるPEG-IATの非特異反応
https://www.bloodgroup-tech.work/entry/2021/05/24/054308