不規則抗体同定において、同定用パネル赤血球との反応を観察すれば、全ての抗体が同定できるわけではありありません。単一の特異性(抗E、抗Fyb、抗Diaなど)であれば、ある程度同定可能ですが、3種類以上の特異性を有する抗体が複数存在した際にはパネル赤血球全てと陽性(自己赤血球は陰性)となり、追加で他のパネル赤血球との反応を観察しても同定できないケースがあります。そのような場合は、血液型(表現型)が既知の赤血球沈渣で一つ又は2つの抗体を吸着し、吸着上清(吸着されずに上清に残った1つ又は2つの抗体)とパネル赤血球との反応を観察することで特異性を明らかにすることができます。吸着させた赤血球は抗体解離試験を実施し、解離液とパネル赤血球との反応から特異性を同定します。つまり、吸着分離操作は、複数存在する抗体を分離し、単純化することで同定しやすくする方法の一つです。勿論、酵素処理で破壊する抗原に対する抗体が疑われる際には、酵素処理赤血球を用いることで反応する抗体の数を減らせますので有用な方法の一つとなります。通常、複数の抗体が混在する血漿(血清)の抗体同定には主にこの二つの方法を組み合わせます。理論上は理解できても実際に実施しようとすると、どの抗体を吸着させて、どの抗体を上清に残せばいいのか迷うと思います。ここでは、抗E+抗c+抗Jka+抗Sの例をもとに注意点を記載します。間接抗グロブリン試験(以下、IAT)で抗Eは4+、抗cは4+、抗Jkaは1+、抗Sは3+程度の抗体が混在したと仮定します。これら4種類の抗体が混在すれば、パネル赤血球との反応は、おそらく市販のパネル赤血球試薬では全て陽性(強弱あり)の反応が観察されます。そのため、抗体を単純化する目的で吸着分離を行いますが、吸着する際の鉄則は、「弱い反応を示す赤血球で血清を吸着する」ことです。つまり、吸着後の血清とパネル赤血球との反応において、数本でも陰性にできれば、消去法なども活用できるということになります。また、強い抗体を吸着しようとすると、全て吸着されなかった際には、吸着前と同様に全て陽性になり迷路にハマります。これを回避するためには、こういうケースではR1R1型(D+C+E-c-e+)、Jk(a+)、S+型赤血球で、抗Jkaと抗Sを吸着し、まずは抗Eと抗cは上清中に残し同定を行います。次に吸着した赤血球を解離し、解離液から抗Jkaと抗Sを同定します。または、酵素処理赤血球を取り入れ抗Sの反応を除外して同定することもあります。勿論、解離液で抗体同定をする際に、Jk(a-b+)、S+型赤血球との反応から抗Sを特定することも可能です。抗Jkaの反応が弱い場合は、酵素処理したJk(a+b-)型との反応で抗Jkaを特定する方法もあります。複数抗体の抗体同定を行う際には、様々な方法がありますが、今回のように初めから特異性が分かっているわけではないので、吸着操作で分離する際には、可能な限り被検者の血液型タイピングを行い、保有する可能性のある抗体の性質も考慮して実施する必要があります。
【Keyword】#抗体の吸着分離 #複数抗体 #凝集の強弱
【参考Blog】
・#105:ケーススタディー(Episode:05)複数抗体が示唆された際には、まずは酵素処理赤血球を活用する(抗E+抗Fyb)
https://www.bloodgroup-tech.work/entry/2021/01/04/053958