血液型検査のサポートBlog

血液型検査(輸血検査)で生じる悩みや疑問(はてな?)をサポートする医療従事者向けのBlogです。

#076:非特異反応を軽減したPEG-IATの上手な使い方の(はてな?)

 ポリエチレングリコール(PEG)を添加した間接抗グログリン試験(PEG-IAT)は、不規則抗体の検出感度に優れているため、試験管法を実施している施設においては、交差適合試験や抗体同定検査に用いられています。しかし、臨床的意義が低い冷式抗体の持ち越しによる好ましくない反応や被検者血漿(血清)に由来する赤血球抗体以外の非特異反応(M蛋白、γグロブリン、免疫複合物等によるもの)に悩まされるケースも少なくありません。ここでは、非特異反応を軽減したPEG-IATの上手な使い方の(はてな?)についてシェアしたいと思います。

 試験管法で間接抗グロブリン試験を実施する際には、無添加の60分加温-IAT(以下、60分-IAT)の他に、LISS-IAT、PEG-IATが広く用いられています。各反応増強剤の特徴や有用性については、#013:間接抗グロブリン試験に用いる反応増強剤の(はてな?)をご覧下さい。ここでは、LISS試薬及びPEG試薬を、どういうケースで選択した方がスムーズに解決するか、又はPEG試薬しか保有していない施設(LISS試薬を保有していない)において、非特異反応と考えられる反応に遭遇した際に、もう一歩先に進める方法についてシェアしたいと思います。

まずは、知っておかなければならない事実は、どんな感度が高い方法を用いても完全にDHTR(遅発性溶血性副反応)は防止できないという事実です。DHTRとは、過去に保有していた抗体に対応する抗原陽性赤血球の輸血によって、早期に二次免疫応答が起こり、輸血した赤血球が破壊(血管外溶血)される現象で、その頻度は、1/5,000~1/10,000程度の頻度とされています。日本人ではRh系の抗体及びKidd系抗体が原因と考えられるDHTRが多く報告されています。日常検査において、低力価(弱い反応)の抗体を必死に検出するのは、DHTRを少しでも防止したいと考える為です。しかし、検出感度を上げれば、必ず非特異反応も増加します。そして、頻度から考えると、おそらく非特異反応に悩まされているケースの方が圧倒的に高いでしょう。

 日常検査で検出するような主な血液型抗原(主要抗原)に対する抗体では、60分-IATの反応強度をベースにした場合、[SL.1]に示す様に、LISS-IATは同等又は若干反応強度が高くなり、PEG-IATは60分-IATに比べて2グレード程度凝集が強くなります。w+や1+程度の凝集では不慣れな担当者では陰性と判定する可能性がありますが、2+以上であれば殆どの人は陽性とします。その点がPEG-IATは優れていると言われる由縁です。凝集を見るのが慣れている人であれば、LISS-IATでもPEG-IATでも判定出来ます。PEG-IATだけで検出する非常に弱い抗体もありますが、使用する赤血球の選択(ホモ接合を複数例)を考慮することで、LISS-IATでも拾えないことはありません。また、強い反応(Sal法で3+以上)を示す冷式抗体保有者の場合は、PEG-IATは漏れなく持ち越し現象を起こすため、60分-IAT又はLISS-IATの方がIgM性抗体の影響を受けにくい検査方法となります。

 PEGを用いた際に赤血球に対する抗体だけを検出すれば問題になることはないのですが、ヒトの血漿(血清)を用いた検査では、赤血球抗体以外のγグロブリン等の影響を受けて非特異反応による弱陽性の凝集を呈することが、PEGのデメリットです。特にM蛋白を産生するような被検者ではほぼ漏れなく非特異反応を起こしてしまいます。これを回避するためには、血漿(血清)中のγグロブリン濃度を下げるために、検体を希釈することが効果的ですが、希釈=検出感度低下と考えるため、なかなか実行できない場合もあります。そこで、希釈した血漿を用いてPEG-IATを実施し、原液血漿のLISS-IATとどの程度感度に差があるかを調べた結果が[SL.2]の結果となります。結論から言うと、2倍希釈した血漿でPEG-IATを実施するのと原液血漿でLISS-IATを実施するのは、ほぼ同じ検出感度であるということです。これは、原液血漿のLISS-IATと希釈血漿のPEG-IATを行った際の赤血球への抗体感作量をFCM解析で算出したものです。言い換えれば、それくらいPEGは赤血球に抗体やγグロブリンを結合される効果があるということになります。従って非特異反応も起こしやすいのも理論に合っています。

 弱い抗体を2グレード程度反応強度を上げるためにPEG-IATは効果的ですが、一部の患者の場合は非特異反応によってw+~1+程度の凝集が出てしまいます。それを回避するには、LISS-IATを行うか、LISS試薬がなければ検体血漿(血清)を1.5~2.0倍に希釈しPEG-IATを実施することで、ある程度非特異反応を低減し、輸血上問題となる抗体検出が出来る、という内容でした。不規則抗体検査をスムーズに実施するための参考になれば幸いです。

 

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