血液型検査のサポートBlog

血液型検査(輸血検査)で生じる悩みや疑問(はてな?)をサポートする医療従事者向けのBlogです。

#156:輸血検査のQ&A(反応増強剤無添加の60分加温-IATは実施する意義はあるのか?)

 

 抗E、抗Dia、抗Fyb、抗Jkaなど日常検査で検出される臨床的意義ある抗体の多くは、主にIgG性抗体であり、LISS-IAT、PEG-IAT及び60分加温-IATなどの間接抗グロブリン試験で検出される抗体です。低力価の弱い抗体では、ポリエチレングリコールを添加したPEG-IATが最も強く反応するため、現在では多くの検査室で使用されています。PEG-IATで1+〜2+程度の凝集は、60分加温-IATでw+もしくは陰性になることもあります。そのため、弱い抗体検出にはPEG-IATが向いているというのは事実です。勿論、臨床的意義が低い冷式抗体の持ち越しやγグロブリン等の非特異反応を生じやすいデメリットもあります。しかし、トータル的に見ると、PEG-IATはやはり日常検査で検出する抗体の見逃しも低減できるメリットの方が大きいのは確かです。では、60分加温-IATは本当に必要なのか?、60分という時間を費やしてまで実施する意義があるのか?という話になります。

60分加温-IATを実施するメリットは、強い冷式抗体が存在する血漿(血清)の抗体検査を実施する時、自己抗体に混在した同種抗体の有無を見極める時(感度を少し低下させて自己抗体の反応を低下させる)、HTLA(High Titer Low Avidity)の性質を示す高頻度抗原に対する抗体が疑われる時です。とくに抗Jra、抗JMH、抗KANNO、抗Ch/Rg、抗Knopsなどの抗体では、時間をかけて感作した方が凝集はしっかり出てきます。PEG-IATで10〜15分感作するのと同等もしくは若干強く凝集が形成されます。この特徴を活用することで、上記のような高頻度抗原に対する抗体を同定する際の一助となります。パネル赤血球と全て陽性(自己対照陰性)の反応を示した際には、PEG-IATと60分加温-IATを併用し、凝集強度を観察することで抗体の性質を把握できるメリットがあります。60分加温-IATを実施する意義はこの点です。

 

【参考ブログ】

・#012:PEG-IATが弱陽性の場合の(はてな?)

https://www.bloodgroup-tech.work/entry/2020/01/25/070412

 

・#039:抗Jraの性状及びHTLA抗体の(はてな?)

https://www.bloodgroup-tech.work/entry/2020/04/08/211330