血液型検査のサポートBlog

血液型検査(輸血検査)で生じる悩みや疑問(はてな?)をサポートする医療従事者向けのBlogです。

#145:輸血検査のQ&A(血漿中のA,B転移酵素活性と赤血球A,B抗原量は相関するの?)

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結論からいうと、赤血球の抗原量と血漿中のA,B転移酵素活性には相関がありません。赤血球の抗原量が多少少ない一部の例においては血漿中の転移酵素活性が若干低下している場合もありますが、基本的には赤血球の抗原量と血漿中の転移酵素活性は相関しません。わかりやすい例を一つあげれば、A2型は現在使用している抗A試薬ではA1型と変わりなく4+を示します。A2型は通常のA抗原の赤血球の1/4程度しかA抗原がありません。しかし、血漿中のA転移酵素は通常のガルサーブAB試薬による検査では検出されません。なぜ、ある程度抗原量があるにも関わらず、血漿中の転移酵素活性が認められないのか?・・・これは日本人の殆どのA2型は、ABO遺伝子のエキソン7の一塩基置換によって生じているためです。ABO遺伝子のエキソン6,7領域に遺伝子変異(主に一塩基置換)があると、血漿中の転移酵素活性は検出感度以下になります。この矛盾(転移酵素が検出されないのになぜ抗原がある?)は、実は骨髄中の糖転移酵素と血漿中に存在している糖転移酵素は由来が異なっているためです。血漿中の転移酵素は、N末端がリリース(切断)されたものであり、骨髄中の転移酵素とは異なっています。すでに体内では転移酵素活性を失っているものです(もしも血漿中に存在する転移酵素に活性があったら、A/OキメラやB/Oキメラなどは存在しません。A転移酵素活性があれば、O型がA型に転換されてしまいます)。試験管法でO型がA型やB型に転換されるのは、試薬として基質や緩衝液を加えて反応させているためです。生体内(循環血液内)のリアルな反応ではありません。では血漿中の転移酵素活性を測定する意味は?と思うかもしれませんが、簡単にいうと血漿中の転移酵素活性を測定することで、骨髄中の糖転移酵素活性の程度を推測している、という程度になります。また、転移酵素の有無によって、ABO遺伝子のエキソン領域に変異がある表現型=亜型(A3、B3など)の可能性なのか、抗原減弱のような後天的に抗原が低下したものかを鑑別する一つの検査という位置づけになります。従って、血漿中のA,B転移酵素活性を測定しても転移酵素活性から抗原量を予測することは難しいということです。一部の例外といったのは、Amos、Bmos、A1Bmos、AmosBなどの表現型では、抗原量が通常よりも若干減少している表現型ですが、これらは多少転移酵素活性が通常の表現型よりも低下している傾向があるという意味で一部の例外としました。

 

【参考ブログ】

・#088:赤血球A,B抗原量と血漿中A,B転移酵素活性の(はてな?)

https://www.bloodgroup-tech.work/entry/2020/10/07/052859

 

・#090:ABmos表現型の血漿中B転移酵素活性の(はてな?)

https://www.bloodgroup-tech.work/entry/2020/10/16/071956

 

・#114:ケーススタディー(Episode:14)血漿中の転移酵素活性の有無は亜型判定の一助になる(B3)

https://www.bloodgroup-tech.work/entry/2021/02/12/052223