血液型検査のサポートBlog

血液型検査(輸血検査)で生じる悩みや疑問(はてな?)をサポートする医療従事者向けのBlogです。

#090:ABmos表現型の血漿中B転移酵素活性の(はてな?)

 ABmos表現型とは、本質的にはAB型であるものの通常のB抗原量を有する赤血球と抗原量が低下又は様々な抗原量を有する赤血球が混在している表現型です。そのため、抗B試薬と凝集が若干弱くなったり、背景に濁りを生じたりします。これは血液疾患等で観察される後天的な抗原減弱に良く似ていますが、生涯変わらないことから先天的であり、大きな括りから言えば亜型の一部と考えることも出来ます。ここでは、ABmos表現型の血漿中B転移酵素活性の(はてな?)についてシェアします。

 ABmos表現型の血漿中B転移酵素活性は、通常のA1B型と比べて若干B転移酵素活性が低くなる傾向があります。ABO遺伝子のエキソン7領域に遺伝子変異を有する典型的な亜型(亜型の殆どのが相当する)の際には血漿中B転移酵素活性は認められない(検出できない)ため、B転移酵素活性のある・なしは、一つの鑑別ポイントになります。また、唾液や爪を用いたABH型物質は、通常のAB型と相違ないことが分かっています(亜型では型物質が低下する)。スライド法による凝集開始時間は、ABmos表現型のバリエーションによって若干異なりますが、B抗原量が少ない(O型に近い)集団が多い検体では、当然のことながら抗B試薬の背景が濁り、mf(部分凝集)が観察されます。B抗原量の少ない赤血球から通常レベルの赤血球まで連続的に抗原量が異なる赤血球が混在する検体(#089記事のグループAとB)では、通常レベルの抗原量を有する赤血球が存在するため、スライド法では凝集開始時間に亜型のような遅延は生じません。しかし、抗原量が少ない赤血球も存在するため、2分経過後にも一つの塊にはならず背景も濁りを生じます[SL.1]。従って、このような検体に遭遇すると、亜型又はキメラ等を疑って精査を進めることになります。勿論、このような検体に遭遇した場合は、輸血歴、造血幹細胞移植歴、血縁者の中で亜型と言われた人がいるか否か、血液疾患の有無、妊娠中の有無など、抗原的な抗原減弱の要因となることは否定しなければなりません。

 ABmos表現型のうち、FCM解析で陰性領域から陽性領域まで連続的なヒストグラムパターンを示す検体(様々な抗原量の赤血球が混在)11例の血漿中B転移酵素活性を調べた結果を[SL.2]に示します。やはり、抗原量と血漿中のB転移酵素には相関関係は見出せませんでしたが、ABmosと通常のAB型の比較では、ABmosでは血漿中のB転移酵素活性が少し低下していることが確認されました。通常の表現型及び亜型の抗原量と血漿中の転移酵素には関連性がありませんが、Amos、Bmos、AmosB、ABmosだけは少し例外的かもしれません。いずれも転移酵素活性は低くなる傾向が確認されています。

 また、抗原量と転移酵素活性の関連を明確にするために、これまで複数例の遺伝子解析を行ってきましたが特定の遺伝子は同定されませんでした。そこで、ある程度血清学で同じような反応を示す検体を集めて遺伝子領域を広げて解析したところ、最近、血清学的にA1B3及びABmosと判定した検体のB遺伝子のイントロン4に共通した遺伝子変異が見つかりました。特にA遺伝子とヘテロ接合したAB型の場合にB抗原量が低下することが示唆されています。他のAmos、Bmosについては現時点では特定の遺伝子変異がはっきりしていません。

 血液型の決定は遺伝子タイプで決定するのではなく、あくまで抗A、抗B試薬との反応性、スライド法による凝集開始時間、部分凝集の有無、各種レクチンとの反応性、転移酵素活性、唾液検査等の血清学的結果を総合的に判断し決定することは言うまでもありませんが、ある特定の遺伝子変異が同定されれば、血清学の一助になることは間違いありません。血液疾患や癌などの疾患ではない患者さんがこのような反応を呈した際には、疾患による抗原減弱とするには決定打に欠け、また亜型と判定する程抗原量が減少していないケースがあります。こういう場合には、数ヶ月後、1年後に再度検査をしてみることも一過性の減弱なのか継続的(先天的)な反応なのかを鑑別する一つの方法です。

 

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