通常、唾液中には多量のABH型物質が含まれているため、唾液中の型物質を調べることで、ある程度ABO血液型が判定できます。A型の唾液にはAとH、B型の唾液にはBとH、AB型の唾液にはAとBとH、O型の唾液にはH型物質が含まれます。唾液検査は通常、亜型検査の一部として実施されますが、なぜ唾液の型物質を調べる必要があるのでしょうか?・・・それは、亜型個体では赤血球のA,B抗原の減少と同じように唾液中の型物質も減少するからです。例えば、オモテ検査の抗A試薬と反応が弱く(背景が濁っている)、一見A3型に見えるような検体に遭遇した場合、考えるのは2つ、①A3などの亜型(先天的)、②疾患(白血病など)によるA抗原減弱です。この場合、患者情報を収集することは勿論ですが、唾液検査で通常のA型と比べて顕著にA型物質が少ないのはA3型、唾液中の型物質の量が通常と変わらないのは抗原減弱という判断ができるためです。また、造血幹細胞移植などを行った場合、赤血球の血液型はドナー型(供血者側)に変化しますが、唾液中の型物質は、本来の血液型のまま変わらないため、例えば、B型患者へA型の骨髄移植を行った場合、赤血球はA型に置き換わっても唾液中の型物質はBとHが検出されます。
唾液中には多量の型物質が存在すると言いましたが、これは分泌型個体の場合で、非分泌型個体では、唾液中に含まれる型物質の量が少なくなります。なぜLe(a+b-)の表現型だと非分泌型とわかるのか?、きっと不思議に思う人もいるでしょう。そこで、簡単に説明すると、分泌型、非分泌型の違いはSe遺伝子が関与します。Se/Se又はSe/seは分泌型、se/seは非分泌型となります。一方、Lewis抗原(Lea、Leb)の生合成には、Le遺伝子だけではLeaしか生合成されず、Le遺伝子とSe遺伝子が存在する場合にLeb抗原が生合成されます。つまり、Le(a+b-)の表現型では、Se遺伝子の関与がなくse遺伝子しかないことが想定されるため、非分泌型であるとわかるということです。しかし、日本人の場合は、真のse/seというのはまれで、Se遺伝子の変異型であるSew又はSejという遺伝子です。これらは、少し活性があるため唾液中のABHを生合成します。従って、Le(a+b-)だからと言って全く型物質が検出されないのは僅かです。Le(a+b-)で亜型の場合はかなり少量になりますが、通常の表現型であれば、唾液中の型物質が十分検出可能です。
【参考ブログ】
・#004:唾液中のABH型物質の(はてな?)
https://www.bloodgroup-tech.work/entry/2020/01/05/060946
・#093:ABO亜型個体の唾液中のA,B型物質量の(はてな?)
https://www.bloodgroup-tech.work/entry/2020/11/01/053815
・#094:唾液検査でABO型が判定出来ない場合は爪を用いる!の(はてな?)
https://www.bloodgroup-tech.work/entry/2020/11/05/124840