血液型検査のサポートBlog

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#114:ケーススタディー(Episode:14)血漿中の転移酵素活性の有無は亜型判定の一助になる(B3型)

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 オモテ検査の抗A又は抗Bと微弱な凝集を示し、スライド法では凝集開始時間が明らかに遅延している場合、亜型の可能性があります。稀に血液疾患(AML、MDS等)の一部は、亜型と鑑別ができない程度まで抗原が減弱する場合もありますので、まずは被検者の背景(疾患、移植歴等)を確認する必要があります。典型的な亜型(A、Bなど)と抗原減弱を鑑別する際のポイントは2つ、①血漿中の転移酵素活性、②唾液中の型物質量、そして参考情報として、血漿中の不規則性抗A又は抗Bの保有の有無です。

 ABO亜型の多くは、ABO遺伝子のエキソン6又は7領域の一塩基置換によるものが多数を占めます。その他にスプライシング部位の変異やイントロン1内にある赤血球細胞に特異的な転写制御領域の一塩基置換、プロモーター領域の一塩基置換も稀にありますが、こういったレアな症例は数が少なく、多くはエキソン6又は7領域の一塩基置換によるものです。エキソン6又は7領域に変異があると、血漿中の転移酵素活性は通常使用している試薬(ガルサーブAB)では検出できなくなります。従って、血漿中の転移酵素活性を認めない場合は、遺伝子上に変異があるという目安になります。抗原減弱の場合は遺伝子の転写異常が原因であり、エキソン6、7には通常は異常がないため、転移酵素活性は認められます(若干低い場合もある)。ここが一つの鑑別ポイントになります。

 また、典型的な亜型(典型的というのは、エキソン6,7に変異がある亜型)では、赤血球上の抗原とともに唾液中の型物質も低下します。唾液中の型物質量は、分泌型、非分泌型でも異なります。Lewis血液型がLe(a-b+)の分泌型であっても亜型では唾液中から型物質が証明されない場合もありますので、その際には爪を用いた検査などを追加し、赤血球以外(体細胞由来試料)でもABO型を判定すると良いと思います。通常、抗A、抗B試薬と直接凝集反応が認められるA、B以下の亜型で不規則性の抗Aや抗Bを保有するのは、A又はBの一部とシスAB型(cisAB、cisAB)であり、A、B以下の亜型の殆どが不規則性の抗A又は抗Bを保有するわけではありませんが、抗原減弱例では例え抗原量がA(B)レベルであっても不規則性の抗Aや抗Bを保有しません

 

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 AやB以下の目安は、抗Aや抗B試薬を用いた被凝集価測定で概ね8~16倍以下と考えておくと良いと思います。現在使用しているモノクローナル試薬では、32倍以上の場合、試験管法では3+以上の凝集強度になります。従って、試験管法で2+以下の場合は、概ね8倍以下ということになります(Aレベル程度の抗原量では、現在は通常のA型と判定されます)。

 今回の例は、典型的なB型の例であり、血漿中のB転移酵素活性は認められず、唾液中の型物質も通常のB型と比べて顕著に少ないことが確認されています。また、FCM解析では、抗原減弱例とは異なり陰性領域をピークとして陽性側の裾の部分が僅かに陽性側に広がっているパターンが観察されます。陰性対象のO型に重なってしまう場合もあります。試験管法で見た際にははっきり凝集があっても、FCM解析の際には、通常グルタールアルデヒド等で固定操作を行うため抗原量が減少します。試験管法やスライド法で観察された凝集とFCMの結果が一致しないように見えるのは、こういった操作があるためです。従って、直接目で見た凝集が一番リアルで正しいということになります。とくにスライド法を実施した際の凝集開始時間、凝集塊の大きさ、背景の濁り、時間経過に伴う凝集塊形成の有無などを注意深く観察することが何より重要です。

 

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