試験管法のオモテ検査において、抗Aと4+、抗Bとは2+~3+で、ウラ検査でB型赤血球に1+~2+程度の反応を示し、本質的にはAB型と考えられますが血漿中に不規則性の抗Bを保有している例があります。オモテ検査の抗Bとの反応がB3レベルであることから、A1B3型?の可能性が示唆される例です。このような検体に遭遇した際、最初に確認すべきことは抗A1レクチンとの反応を確認することです。というのも、今回の例では血漿中に不規則性の抗Bと考えられる抗体を保有しています。不規則性の抗Bを保有するのは、通常、BxやシスABなどの場合です(B3レベルで保有することは多くありません)。つまり、この様な反応を示す場合は、シスA2B3型を疑い、A1型かA2型かを見極めることである程度亜型の予測が可能となり、そのあとの検査がスムーズになります。
血清学的検査の結果、抗A1レクチンとの反応は陰性でした。また、血漿中のA及びB転移酵素も認められませんでした。この結果から、cisA2B3型の可能性が高いと考えられます。A2B3型には、勿論、シス型だけではなくトランス型の例も稀に存在します。例えば、父親がA2/Oの遺伝子タイプで、母親が、B3/Bなどの場合、おそらく父親はA型と判定され、母親はB型(通常のB遺伝子を保有するため)と判定されます。その子供は、A2/B(A2B型)、B3/O(B3型)、B/O(B型)、A2/B3(A2B3型)のいずれかのパターンになります(但し、A2遺伝子とB3遺伝子をそれぞれ保有する両親というのは、かなりレアなパターンとなります)。このようなレアなパターンもありますが、通常はcisAB遺伝子とO遺伝子からなるcisA2B3型を想定し、検査を進めることになります。シス型であってもトランス型であっても表現型や血清学検査に大きな違いがないため、確定するためには血縁者の検査(家系調査)を実施するか、cisAB遺伝子を保有していることを確認することです。現在では、ABO亜型検査において血清学検査とともに遺伝子検査も少しずつ導入されています。ABO対立遺伝子は、一つの表現型から複数の対立遺伝子が検出されているため、遺伝子と表現型が1:1の関係にならないことから参考程度に留めていますが、シスAB型やBmの場合は対立遺伝子が限定されているため、遺伝子検査を実施すれば高い確率で遺伝子背景が確定できるようになりました。
そもそもA遺伝子とB遺伝子の違いを決定するのは、ABO遺伝子の4箇所のアミノ酸の違いです。176番目、235番目、266番目、268番目のアミノ酸の違いによってA又はBの転移酵素活性の違いを生じます。シスAB遺伝子は、A遺伝子を基本構造とするcisAB01、B遺伝を基本構造とするcisAB02がありますが、いずれも重要な4カ所のアミノ酸は、後ろ2つがA遺伝子-B遺伝子の配列となっています。cisAB遺伝子が、O遺伝子とヘテロ接合(cisAB01/O)の際には表現型がcisA2B3となり、A遺伝子とヘテロ接合の際(cisAB/A)にはcisA1B3となり、B遺伝子とヘテロ接合(cisAB/B)の際にはcisA2Bとなります。
O遺伝子とヘテロ接合したシスA2B3型が最も多く検出されます。これらの血清学的検査の特徴は、抗A1レクチンとは陰性であり、血漿中のA、B糖転移酵素活性は認めず、血漿中に不規則性の抗Bを保有します。また、唾液中の型物質は分泌型であっても通常のAB型と比べて非常に少ない特徴があります。従って、血清学検査を実施した上で遺伝子検査を実施し、既知の遺伝子(cisAB01又はcisAB02)によるcisAB型であれば、遺伝形質を調べる家系調査を実施しなくても亜型を確定できるようになりました。
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