血液型検査のサポートBlog

血液型検査(輸血検査)で生じる悩みや疑問(はてな?)をサポートする医療従事者向けのBlogです。

#008:シスAB型の(はてな?)

 ABO血液型は糖転移酵素の特異性により決定されます。一つの対立遺伝子がAとBの特異性を有する遺伝子をシスAB遺伝子といいます。そもそも、シスAB型の発見のきっかけは、AB型とO型の両親からAB型の子供が生まれたことがきっかけとなっています。ここでは、ABO亜型であるシスAB型の(はてな?)についてシェアしたいと思います。

 通常、A型はA/A又はA/O、B型はB/B又はB/O、AB型はA/B、O型はO/Oという遺伝子型であり、両親から一つずつ対立遺伝子を受け継ぎます。AB型とO型の両親の場合、それぞれ一つずつ遺伝子を受け継ぎ、A/OのA型又はB/OのB型の子供が生まれるのが普通です。しかし、シスAB型ではシス遺伝子を引き継ぐ(遺伝)するため、AB型とO型の両親から、AB型の子供が生まれます。とは言っても通常のAB型が生まれるわけではありません。A抗原もB抗原もともに抗原量が少ない(とくにB抗原が少ない)AB型となります。現在では、その原因となるシス遺伝子が解析され、一つの遺伝子がAとBの特異性を有する遺伝子であることが分かっています(通常は、A遺伝子はAの特異性を、B遺伝子はBの特異性のみ有します)。一つの遺伝子がAとBの特異性を有するという意味は、一方の対立遺伝子のみで赤血球上にA抗原と通常のAB型よりも抗原量が少ないB抗原を生合成するということです。現在まで世界中で6種類のシスAB遺伝子(ABO*cisAB.01ABO*cisAB.06)が報告されていますが、日本人では主にcisAB01が大半でcisAB02が稀に検出されます。その他にもレアなシスAB遺伝子が時々検出されますが、主に検出されるcisAB01cisAB02の特徴についてシェアしたいと思います。

 A遺伝子とB遺伝子の違いは、4箇所のアミノ酸の違いであり、176番目、235番目、266番目、268番目のアミノ酸の違いがA遺伝子とB遺伝子の違いであることは、前回の記事で紹介しました。シスAB遺伝子は、A型を基本構造とするcisAB01、B型と基本構造とするcisAB02がありますが、いずれも重要な4カ所のアミノ酸は、後ろ2つがA遺伝子-B遺伝子の配列となっています。cisAB遺伝子が、O遺伝子とヘテロ接合(cisAB01/O)の際には表現型がcisA2B3となり、A遺伝子とヘテロ接合の際(cisAB/A)にはcisA1B3となり、B遺伝子とヘテロ接合(cisAB/B)の際にはcisA2Bとなります。cisA1B3では現在市販されている抗Bとは殆ど反応しないため、オモテ検査はA型となり、血漿中に不規則性の抗Bを保有するため、オモテ・ウラ一致のA型に判定される場合があるため、注意が必要です。

 O遺伝子とヘテロ接合したシスA2B3型の血清学的検査の特徴は、抗A1レクチンとは陰性であり、血漿中のA、B糖転移酵素活性は認めず、唾液中の型物質も通常のAB型と比べて少ない(殆ど検出出来ない)特徴があります。A抗原は比較的抗原量が多いため、通常のA1と勘違いします(抗A1レクチンとの反応で気が付く)。逆にB抗原は少ないため試験管法で2+~3+の反応態度を示すことから亜型の可能性を疑うというのが多くのパターンです。自験例の14例のシスA2B3型を解析した結果、cisAB01が12例、cisAB02が2例同定され、赤血球の抗原量比較ではcisAB01よりもcisAB02の方が抗原量は多い結果でした。cisAB02/OのシスA2B3型は、現在市販されているモノクローナル抗体では通常のAB型と判定されてもおかしくない範疇の凝集の強さとなります[図.1、2]。いずれのタイプにおいても血漿(血清)中には自己赤血球とは反応しない不規則性の抗Bを保有する特徴があり、この抗Bは37℃でも反応する場合があります。

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