血液型検査のサポートBlog

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#081:B遺伝子由来と考えられる新たなシスAB遺伝子の(はてな?)

 シスAB遺伝子とは、一つの対立遺伝子がAとBの転移酵素活性を有する遺伝子のことで、O遺伝子とヘテロ接合しても表現型はAB型になります(通常はB抗原が弱いAB型)。日本人から検出されるシスAB遺伝子は、A遺伝子がベース構造となっているcisAB01B遺伝子がベース構造となっているcisAB02の2種類といっても過言ではありません。ここでは、B遺伝子由来と考えられる新たなシスAB遺伝子の(はてな?)についてシェアしたいと思います。

 cisAB01cisAB02によるシスAB型についての詳細は、#008:シスAB型の(はてな?)をご覧ください。一つの遺伝子がAとBの特異性を有するという意味は、一方の対立遺伝子のみで赤血球上にA抗原と通常のAB型よりも抗原量が少ないB抗原を生合成する転移酵素をコードする遺伝子ということです。現在まで世界中で6種類のシスAB遺伝子(ABO*cisAB.01ABO*cisAB.06)が報告されています。今回シェアするのは、この6種類とは異なるタイプ遺伝子であり、かなりレアなシス遺伝子です。

 まずは、基礎知識としてA遺伝子とB遺伝子の違いを説明します。ABO遺伝子には4箇所(176番目、235番目、266番目、268番目)のアミノ酸が異なります。この違いがA遺伝子とB遺伝子を識別する違いとなります。シス遺伝子には、A遺伝子を基本構造とするcisAB01B遺伝子と基本構造とするcisAB02がありますが、いずれも後ろ2つはA遺伝子-B遺伝子の配列となっています。また、それぞれの赤血球上の抗原の特徴として、どちらもA抗原はA2レベルの抗原量ですが、B抗原はcisAB01の方がcisAB02よりも抗原量が少ない特徴があります。逆を言えば、cisAB02の方がB抗原量は多いということになります。従って、O遺伝子とヘテロ接合した場合、典型的なcisA2B3と言えるのはcisAB01/Oの方です。cisAB02/Oは現在のモノクローナル抗A、抗Bを使用して試験管法で判定した場合は通常のAB型と判定されます。

では、この新たなシスABを検出したきっかけからシェアしたいと思います。この検体(No3)は血清学検査(オモテ検査)でA2Bかな?と考えられた検体でした[SL.1]。しかし、精査を進めると血漿中A転移酵素が2~4倍程度、B転移酵素も4倍程度でした。どうみても通常のA2Bとは異なることが示唆されました。というのも通常のA2Bであれば、一部の例外を除いてはA転移酵素が出ないこと、通常B転移酵素は通常のAB型同様に出るはずなのが出ないからです[SL.2]。そこで、ABO遺伝子型を調べたところ、O遺伝子が検出されました。この時点でシスAB型の可能性が示唆されます。O遺伝子があるにも関わらず、A抗原、B抗原があるということは、もう一方の対立遺伝子がA、B抗原をコードする遺伝子という意味になるためです。さらに深掘りするため、直接シークエンス法によって塩基配列を確認した結果、基本構造はB遺伝子と同様でしたが、796番塩基がA遺伝子でもB遺伝子でもないグアニン(A796G)であり、その結果、266番目のアミノ酸はVal(バリン)になることが推測されました[SL.3]。日本人に多いタイプのシスAB遺伝子は、266番-268番のアミノ酸は、Leu-Alaになりますが、この検体ではVal(バリン)-Alaになっていました。通常、このようにエキソン7内の塩基が一塩基置換しアミノ酸の置換を伴うミスセンス変異の場合は、基本構造がB遺伝子なのでB3となるのが普通のパターンです。しかし、この遺伝子はA抗原も生合成する遺伝子であり、いわゆるシス遺伝子ということになります。A抗原量はcisAB01cisAB02よりも少ないことがFCM解析で分かりました。B抗原は通常のAB型と同レベルでした[SL.4]。従って、表現型の判定はA2Bとなり、cisA2Bということになります。なお、血縁者も検査したところ、親子3代でこの遺伝子が検出され遺伝形質であることが確認されました。

今回のレアなポイントは、基本構造がB遺伝子である遺伝子の一塩基置換があり、通常であれば抗原量が低下するB亜型(B3)が想定されるところであるが、A抗原も生合成するシス遺伝子であった。しかも、796番塩基の置換によって生じた266番目のアミノ酸はA遺伝子、B遺伝子とは関係のないVal(バリン)であったという点です。通常検出されるA2Bと決めつけて検査を進めなければ、この新たなシスAB遺伝子の発見はなかった一例でした。

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