血液型検査のサポートBlog

血液型検査(輸血検査)で生じる悩みや疑問(はてな?)をサポートする医療従事者向けのBlogです。

#025:Bombay型、para-Bombay型の(はてな?)

 Bombay(Oh)型は、赤血球にA型及びB型物質を欠き、抗A及び抗B試薬とは陰性であることから一見O型に見えます。通常のO型と違う点は、赤血球と唾液中にH型物質を欠き、血清中には強い抗Hを保有するため、O型赤血球とも凝集(自己赤血球以外全て)する点です。ここではBombay型、para-Bombay型の(はてな?)についてシェアしたいと思います。

 ABO血液型の中には種々の亜型が存在し、A型の亜型は抗原量が多い順にA2型、A3型、Ax型、Ael型の表現型に分類されます。抗A試薬と直接凝集反応が観察されるのは、Axまでで、Ael(elution)は赤血球上のA抗原が非常に微量のため、通常の検査では凝集反応は観察されません。Ael型は、血清学的には抗Aによる吸着解離試験で確認されます。一方、B型の亜型は、A2型に相当するB2型というカテゴリーがないため、B3型、Bx型、Bm型、Bel型に分類されます。Bm型は日本人では最も多い亜型で、およそB型個体の2,000人に1名程度の頻度で検出されます(Am型は数例しか報告例がありません)。

 赤血球上のA抗原及びB抗原は通常骨髄の中で糖が付加され生合成されます。土台となるH抗原(フコース)にN-アセチルガラクトサミン(NAcGal)又はD-ガラクトース(Gal)を基質としてA糖転移酵素(A-Tf)又はB糖転移酵素(B-Tf)が作用し、赤血球上にA抗原、B抗原が生合成されます。亜型は、転移酵素をコードしているABO遺伝子の変異によって糖転移酵素活性が低下し、糖付加が不完全になるため、結果として赤血球上のA抗原、B抗原が減少します(=亜型)。一方、Bombay型やpara-Bombay型では、ABO血液型の土台となるH抗原が生合成されない(又は少ない)ために、正常なA-Tf、B-Tfが存在していてもA抗原、B抗原が生合成されません。ここがABO亜型とBombay型やpara-Bombay型の相違点です。

 糖鎖抗原系(ABO、P1、H、Iなど)はいくつかの糖転移酵素が連続的に作用し、最終産物としてA抗原、B抗原が生合成されます。一方、Rhなどの血液型ではRHD遺伝子及びRHCE遺伝子の遺伝子産物としてタンパク質(又は糖タンパク質)が生成されます。つまり、遺伝子産物がタンパク質(又は糖タンパク質)の血液型(Rh、Duffy、Kidd、Diego、Ssなど)と遺伝子産物が糖転移酵素の血液型(ABO、P1、H、Iなど)では生合成の過程に違いがあります。

 H抗原を生合成するフコース転移酵素(別名:FUT1)をコードするH/h遺伝子は19染色体上にあり、これはⅡ型のコア糖鎖(骨髄で赤血球系に作用)に働く酵素です。一方、同じフコース転移酵素でも主に分泌中(唾液、粘液、血漿中の型物質など)で働く酵素をFUT2(コードする遺伝子はSe/se遺伝子)、Lewis抗原の生成に関わる酵素をFUT3(コードする遺伝子はLe/le遺伝子)といいます(FUT1~FUT3は全てフコースを転移する酵素です)。

 Bombay型は、h/h遺伝子型のため、H抗原を生合成する酵素活性がないために生じる表現型です。また、分泌組織で働くSe遺伝子もse/se(非活性型)となるため(H/h遺伝子とSe/se遺伝子は連鎖している)、唾液や血漿中にも型物質がありません。つまり、Bombay型は非分泌型であり、分泌型のものはpara-Bombayと分類されます。その結果、血清中には強い抗H(37℃相で反応する抗体)を保有するのが一般的です。そのため、輸血には同型のBombay型(日本人では30万人に1人の程度の頻度)が必要になります。抗A及び抗B試薬と反応しないBombay型は、O型とは異なります。O型はH抗原が存在していることが前提で、抗A及び抗B試薬と反応しない血液型です。H抗原がないBombay型(para-Bombay型)は亜型とは全く異なるということです。Bombay型の人のABO遺伝子型をみると、A/A(A/O)やB/B(B/O)、A/Bの場合があります。H抗原が生合成されないため、正常なA(又はB)転移酵素が存在していてもA及びB抗原が生合成されないだけで、本質的にはA型、B型、AB型であっても、Bombay型ということになります。

 para-Bombay型は、H遺伝子の変異型によってFUT1(フコース転移酵素)活性が低下し、H抗原の生合成が少なくなります。Bombayと違い、全くH抗原を生合成しない訳ではないため、A転移酵素又はB転移酵素の作用によって通常よりも少ないA抗原、B抗原が生合成されます。その結果、A抗原であればA3型~Ax型、B抗原であればB3型~Bx型程度の抗原量になります(それぞれの抗原量にはバリエーションがあり、それはH抗原量によって異なり、そのH抗原量の違いは変異型H遺伝子のタイプによる)。A亜型のA3型~Ax型、B亜型のB3型~Bx型との鑑別点は、Ulexレクチン(抗H)との反応が殆ど無いという点です(亜型は逆に抗Hとの反応は強くなる)。抗A及び抗Bと反応が弱い場合は、まずは抗Hとの反応が陽性であればABO亜型を疑い、陰性であればpara-Bombay型を疑うということになります。なお、para-Bombay型の場合は抗HIを保有することが多く(時々、抗Hを混在する場合もある)、37℃で反応を認めない場合はABO同型の輸血で対応することになります。

 最後に、Bombay型(非分泌型)は抗Hを保有し、para-Bombay型(非分泌型)は抗H(抗HIも混在する場合あり)を保有、para-Bombay型(分泌型)は殆どが抗HIを保有することになります。輸血の際にはBombay型は同型のBombay型を使用し、para-Bombay型の場合は保有する抗Hが37℃で反応するかどうかで同型のpara-Bombay型にするかABO同型の血液を使用するかを決定します。

 

f:id:bloodgroup-tech:20200215164540j:plain