血液型検査のサポートBlog

血液型検査(輸血検査)で生じる悩みや疑問(はてな?)をサポートする医療従事者向けのBlogです。

#010:冷式抗体の性状に関する(はてな?)

 不規則抗体検査において、低温(20℃や4℃)での反応相で強く反応し、37℃相では反応しない抗体を冷式抗体といい、対応抗原が陽性の血液を輸血しても臨床的には無害と考えられています。日常検査で遭遇し、これらの性質を示す抗体には、抗I、抗IH(抗HIともいう)、抗H、抗P1、(抗M)、抗N、抗Lea、抗Lebなどが代表的な抗体です。ここでは冷式抗体の性状に関する(はてな?)についてシェアしたいと思います。

 通常、抗I又は抗HIは健常人血清中にも存在する代表的な冷式自己抗体です。これらの抗体はいずれもi型赤血球(臍帯赤血球:cord-i)とは反応せず(又は弱く)、成人赤血球(adult-I型)と強く反応が認められます。抗I、抗HIともに、本質的には抗Iのグループです。つまり、抗HIとは、H抗原が多い赤血球と強く反応する抗Iの一種であり、A型やAB型個体(H抗原がO型やB型に比べて少ない)が保有することが多いのが特徴です。不規則抗体同定用パネル赤血球はO型試薬であるため、パネル赤血球とは3+~4+の反応を示すが、被検者とABO同型赤血球とは反応しないというのは抗HIの可能性が高いと考えます。勿論、ABO同型と行う交差適合試験でも陰性となります。一方、抗I はABO型に関わらず反応する抗体であり寒冷凝集素とも呼ばれています。自己対照赤血球とも同様に反応が観察されます(O型個体が保有した場合は、抗HIと抗Iで反応性が違わないため区別が出来ない)。抗I、抗HIともに4℃>室温>37℃の反応性を示す典型的な冷式抗体です。 

 本質的に37℃相で活性するかを見極めるには、被検者血漿(血清)と不規則抗体同定用パネル赤血球(以下、パネル赤血球)を加えた試験管を直ぐに37℃の恒温槽へ入れて45~60分間加温し、遠心操作を行わずに凝集の有無を判定する。食塩液法(室温インキュベート)後に一度遠心判定した試験管をそのまま37℃相へ移行すると、遠心判定によって生じた凝集塊がそのまま残り、37℃相へ移行しても解れず、持ち越すため、結果として37℃相で反応しているように見えてしまいます。37℃に加温(45~60分間)し、遠心した場合は、溶血の有無を確認することも重要です。また、引き続き実施する間接抗グロブリン試験を行う場合には、IgM性抗体が一度結合した赤血球には補体成分の一部(C3b)が結合し多特異抗体で陽性となることを考慮する必要があります。従って、冷式抗体を保有する血漿(血清)を操作する場合は、間接抗グロブリン試験に用いる試薬は、抗IgG血清を使用した方が偽陽性反応に悩まされるのを回避出来ます。特に試験管法(即時判定)で4+を示すような比較的抗体価が高い検体を扱う際には、これらの手技は重要となります。

 抗I、抗HIは一部の例外を除き低温反応性であるため輸血上無害であり、被検者とABO同型の血液が選択されます。一方、抗Mや抗Lea、Bombay型やpara-Bombay型個体が保有する抗Hの一部は37℃でも反応が認められる場合があり、その際には対応抗原が陰性の血液が必要である。

 抗Hは非分泌型のpara-Bombay型や非分泌型のBombay型個体から検出されることが多い特徴があります。非分泌型のpara-Bombay型や非分泌型のBombay型では自己赤血球のH抗原が少ない又は全くないため、不規則抗体の抗Hを保有します。A型、B型、AB型のpara-Bombay型の場合には、パネル赤血球との反応で全て3+~4+の凝集を示すにも関わらず、自己対照赤血球とは陰性となり、一見、抗HIと勘違いしてしまうことがあります。抗HIと抗Hとの鑑別は、O型分泌型唾液(H型物質)で凝集抑制されるのが抗H、抑制されないのが抗HIであることを知っていれば、鑑別は容易であり解決の一助となります。Bombay型が保有する抗Hは、37℃でも活性が認められるため、輸血には同型(Bombay型)の血液が必要になります。

 また、A型、B型、AB型のpara-Bombay型では、A又はB抗原が通常の表現型よりも低下しますが、その程度は個体によって差があり、A2、A3程度の抗原量の個体もあれば、Axのような非常に抗原量が少ない個体もあります。抗原量が少ない場合は、オモテ検査で異常を認めるため気が付きますが、A2、A3レベルの抗原量では現在市販されている抗A及び抗Bモノクローナル抗体では3+以上を示すことが多いため、para-Bombay型であることに気が付きません。そのため、抗HIや抗Hが検出された場合には、必ずオモテ検査をスライド法を用いて実施するか、抗A1レクチンなどの反応を確認することがpara-Bombay型を見逃さないことに繋がります。