血液型検査のサポートBlog

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#029:抗I、抗HI保有者のABOウラ検査の(はてな?)

 抗Iは寒冷凝集素とも呼ばれる冷式自己抗体です。赤血球上のI抗原は生後から成人にかけてi抗原からI抗原へ変化するため、通常は成人赤血球のI抗原は陽性です(成人のI-型はまれな血液型です)。抗Iは自分の赤血球上のI抗原とも反応するため冷式自己抗体と分類されます。殆どのヒトの血漿(血清)中には低温で反応する抗Iを保有しますが、室温レベルで反応する抗Iを保有した場合に、ABOウラ検査に干渉(影響)を及ぼします。ここでは、抗I又は抗HI保有者のABOウラ検査の(はてな?)についてシェアしたいと思います。

  冷式抗体を保有した場合のABOウラ検査への干渉(影響)については、「#011:冷式抗体保有時のABOウラ検査の(はてな?)」に詳細に記載していますので、そちらの記事も一緒にご覧下さい。ここでは、抗I、抗HI保有時の実例をシェアします。

 抗IはABO型に関係なく保有しますが、抗HIは比較的H抗原が少ない個体、つまりA型やAB型の個体から多く検出される特徴があります。また、単一特異性抗体で存在する場合もあれば、抗I+抗HIとして存在する場合もあります。いずれにしても殆どが冷式自己抗体であるため、低温で反応(20℃よりも4℃で反応が増強)し、37℃に45~60分の加温後の遠心判定で凝集が観察されることは殆どありません。但し、寒冷凝集素病の場合は抗体価が高く、反応温度領域も広いため、37℃でも反応する場合があります。抗I及び抗HIともに本質的にはIgM性の抗体なので本来間接抗グロブリン試験では陰性のはずですが、IgM性抗体の場合であっても抗体価が高い抗体は持ち越し現象を生じて陽性となることがあります。生食法(室温)の反応が3+以上ある抗体では、反応増強剤(LISS、PEG)などを使用した場合は殆どが陽性となります。

 [図.1]には、AB型個体が抗I又は抗HIを保有した場合のABO血液型判定を示しました。抗Iは、ABO型に関係なく反応するため、ウラ検査ではA、B、O型赤血球全てに同様の反応が観察されます。一方、抗HIは、抗Iの一種ではありますがO型赤血球と強い反応を示す抗体であり、さほど抗体価が高くない場合はO型赤血球とのみ陽性を示します。また、抗体スクリーニングを実施した際には、抗I、抗HIの両方とも同様に陽性となります。その際、自己対照赤血球も同等の凝集があれば抗Iを疑い、弱陽性~陰性であれば抗HIを疑うことになります。抗Iと抗HIの鑑別は被検者とABO同型の赤血球との反応が手がかりとなります。

また、抗I及び抗HIはIgM性の抗体であるため、10mM濃度のDTT(ジチオスレイトール)試薬を用いて血漿(血清)を処理すると、IgM性の抗体は失活し反応が消失します。[図.2]の例は、A型で抗HIを保有した血清のDTT未処理、処理の反応を示しています。この例では、自己対照赤血球とも1+程度の凝集が観察され、ABO同型とも1+程度の反応が観察された例です(O型赤血球とは4+の反応)。A型であってもH抗原は存在しますので、少し強い抗体の場合は、自己対照及びABO同型赤血球とも反応が観察されます。

 

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