血液型検査のサポートBlog

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#039:抗Jraの性状及びHTLA抗体の(はてな?)

 抗Jraは、赤血球上のJra抗原を欠いたJr(a-)型(まれな血液型)個体が妊娠又は輸血による同種免疫によって保有する高頻度抗原に対する抗体です。通常、抗Jraは間接抗グロブリン試験において、検査した全ての同種赤血球と陽性反応を示します(自己対照赤血球は陰性)。ここでは、抗Jraの性状及びHTLA抗体の(はてな?)についてシェアしたいと思います。

 日本人のJr(a-)型は、1/2,000程度であるため、抗Jraを保有した血漿(血清)では、交差適合試験(主試験)や不規則抗体同定用パネル赤血球との反応は、通常すべて陽性となります。自己対照赤血球との反応が陰性であることから、抗赤血球自己抗体の可能性は否定され、複数抗体の存在や高頻度抗原に対する抗体が示唆され精査が進められます。

 赤血球上のJra抗原は、ficin、trypsinなどの蛋白分解酵素、DTT及びAETなどの還元剤、酸処理などで抗原が破壊されないため、未処理赤血球と酵素及び化学処理赤血球との反応では変化がありません[SL.1]。抗JraとJr(a+)型赤血球との凝集反応は、HTLA(High Titer Low Avidity)抗体の性質を有しており、抗体価が高くともRh系抗体などのような強固な凝集塊は見られず、凝集は脆く、試験管を静かに振っている間に次第に凝集がなくなりますSL.2~4]。このようなHTLAの性質を有する抗体は、抗Jraの他に抗KANNO、抗JMH、抗Ch/Rg、抗Knopsなどがあります。このような抗体を保有している血漿(血清)では、5倍、10倍に希釈した血漿(血清)においても、同じような凝集態度を示します。とは言っても、中には抗体価が低い抗Jraも存在します。また、Jra抗原は遺伝子背景の違いで顕著に抗原量が少ない個体も存在します。そのため、低力価(IATで8倍程度)の抗JraとJr(a+w)型の反応では、試験管の振り方次第では陰性となる場合もあることに注意が必要です。

 抗Jraを含む検体の同定作業において、混在する抗体の鑑別には主な血液型(表現型)の異なる複数例のJr(a-)型が必要になります。抗Jra自体の同定はさほど難しくはありませんが、混在する抗体の鑑別は、酵素・化学処理で人工的にJra抗原を破壊できないこと、HTLAの性質を有する抗体のため抗体を吸着除去(抗Jraを陽性赤血球で吸着除去)することができないという点が厄介なところです。抗Jra+抗Eが疑われる検体を、Jr(a+)、E-型の赤血球で抗Jraだけを吸着し、その吸着上清から抗Eを同定するという方法はHTLA抗体ではうまく行きません(吸着上清中に抗Jraが残る)。従って、抗Jra+抗E、抗Jra+抗Fyb、抗Jra+Diaという検体を同定する場合は、Jr(a-)、E+型赤血球、Jr(a-)、Fy(b+)赤血球、Jr(a-)、Di(a+)赤血球との反応が陰性であれば、抗E、抗Fyb、抗Diaの混在は否定的と考えます。抗KANNOや抗JMH等の場合であれば、酵素や化学処理で赤血球上のKANNO及びJMHを人工的に破壊し、影響しないようにした赤血球を用いて主な血液型抗体を同定しますが、抗Jraに混在した抗体を鑑別する際には、鑑別したい抗体が反応する抗原陽性のJr(a-)型赤血球が必要であるという点が他の抗体同定と異なる点です。

 

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