不規則抗体検査で実施するポリエチレングリコール(以下、PEG)を添加した間接抗グロブリン試験(以下、PEG-IAT)は、主な血液型抗原に対するIgG性抗体の検出に優れています。LISS-IATや60分加温-IATに比べPEG-IATでは1~2グレード凝集が強くなる反面、非特異反応に悩まされる場合があるのも事実です。ここではPEG-IATが弱陽性の場合の(はてな?)についてシェアしたいと思います。
PEG-IATの検出感度が高いというのは誰もが知る事実ですが、感度が高いということで赤血球抗原に対する抗体ではない反応(非特異反応)や、輸血には無害と考えられる抗I、抗HI、抗P1、抗Lea、抗LebなどのIgM性の冷式抗体なども一部検出(持ち越し)してしまうデメリットもあります。PEG-IATでw+~1+程度の弱陽性反応を呈する場合には臨床的意義のある抗体(検出することが望ましい抗体)と、好ましくない反応(非特異的な反応)を見極めなければなりません。
不規則抗体同定用パネル赤血球(10~11本)との反応において、数本がw+~1+を呈し他の赤血球が陰性の場合、基本的手順である消去法を実施し、ある程度抗体の存在を否定出来たとしても、陽性を示している抗体の特定には至らず、多くの場合は同定不能となる場合が多いと思われます。
PEG-IATで弱陽性を呈する際には、まずは、その反応がIgG性抗体(主な血液型抗原に対する同種)であることを確認するため、食塩液法(室温)の反応性を確認することが解決法の一つとなります。例えば、低温反応性の抗Mが存在する検体では、M+N-型のパネル赤血球とのみ1+程度を示し、M+N+型血球とはw+または陰性の反応性を示すことがあります。また、抗P1の例ではP1+と記載されたパネル赤血球数本のうち、1~2パネルのみが弱陽性となる場合もあります(糖鎖抗原では個体間の抗原量に差があるため)。このようなケースでは、食塩液法(室温)、必要に応じて4℃に下げて反応を観察することで、その特異性を明確に確認できることがあります。そして、PEG-IATで弱陽性を示す原因がIgM性抗体の持ち越しによるものであることが推測できます。
冷式以外の要因としては、血漿(血清)中のγグロブリンが多い場合にも弱陽性反応を呈し、解決困難に陥る場合があります。場合によっては自己対照赤血球が陰性となり、高頻度抗原に対する抗体を想定してしまうため、さらに迷路にハマルことになりかねません。血清中にM蛋白の増加が見られるような疾患(MDS、肝硬変、感染症、膠原病、マクログロブリン血症、多発性骨髄腫等)の被検者においては、高蛋白(TP10g/dl以上)ではなくても、スライドガラス上で被検者血漿(又は血清)と1%程度のO型赤血球を混合し、2~3分後に顕微鏡で観察すると、強い典型的な連銭形成が認められる場合があります。これは、赤血球表面に非特異的にγグロブリンが結合し、赤血球表面のζ電位が下がる、又は粘性が上がり、非特異的に凝集しやすくなるためです。時々、妊婦においても観察される場合があります。
具体的には、スライドガラス上に血漿(75μL)と1%O型血球(25μL)を混ぜて、数分後(2~3分後)に顕微鏡で観察し、一視野に5個程度の赤血球が連なった連銭形成が複数個観察できれば、PEG-IATの弱陽性(w+~1+)の原因は赤血球抗体以外(γグロブリン等による非特異反応)であることが推測されます[図.1、2]。PEGを添加することによって血漿(血清)中に存在するγグロブリンが検査試薬の赤血球に非特異的に結合し、洗浄によっても剥がれないまま、抗ヒトグロブリン試薬が添加されるために、弱陽性反応を呈することになります。
冷式抗体やγグロブリン等による影響ではないことが確認された際には、低力価の弱い抗体の存在を考えなければなりません。その際には、60分加温-IATの反応を観察することも手がかりとなります。つまり、殆どの赤血球と弱陽性を呈する場合は、高頻度抗原に対する抗体の可能性がありますが、このような弱陽性の反応パターンは、HTLA(High Titer Low Avidity:高力価低凝集力)抗体である抗Jra、抗JMH、抗KANNO、抗Ch/Rg、抗Knopsなどでみられる反応です。これらの抗体では殆どの例で60分加温-IATでも陽性となります(逆に少し凝集態度が強くなることが多い)。通常、主な血液型抗原に対する抗体(抗C、-c、-E、-e、-Fya、-Fyb、-Jka、-Jkb、-Dia、-Dib、-S、-sなど)では、PEG-IATでw+~1+の抗体が60分加温-IATで1+以上を示すことはありません(ほとんどは陰性となる)。また、血漿(血清)を2倍、5倍程度に希釈して反応を見ることも解決法に繋がります。通常、赤血球抗体以外による1+程度の非特異であれば、2倍、5倍希釈した血漿(血清)では陰性となりますが、HTLA抗体では同程度の凝集が観察される場合があります。これが見極めのポイントになります。