血液型検査のサポートBlog

血液型検査(輸血検査)で生じる悩みや疑問(はてな?)をサポートする医療従事者向けのBlogです。

#153:輸血検査のQ&A(不規則抗体を同定した際、抗体価測定は必須ですか?)

 

 通常、抗体の強さ(反応)が強い方が臨床的意義は高い(輸血上考慮しないといけない抗体)と考えられます。1+の凝集よりは4+の凝集を示す抗体の方が危険だ、と考えるはずです。従って、凝集強度(反応性)は輸血を考える際には重要です。1+〜3+の凝集強度では、その抗体の強さの比較やどの程度の強さというイメージはできますが、4+になると、それ以上のグレードがないため、どの程度強いか(抗体量があるか)を判断することが難しくなります。間接抗グロブリン試験であれば抗体価がだいたい8倍以上あれば4+になるため、抗体価が16倍であっても512倍あって原液血漿(血清)との反応は4+になります。例えば2種類の抗体を保有し、パネル赤血球との反応がどちらも4+の場合、どちらが強い?、を判断するには抗体価を測定することです。例えば、抗Eと抗Diaという抗体を保有していたとして、E+,Di(a-)赤血球と4+、E-,Di(a+)赤血球と4+ではどちらが強いか、パネル赤血球との反応からはわかりません。抗体価を測定し、E+,Di(a-)赤血球と32倍、E-,Di(a+)赤血球と8倍であれば、試験管法やカラム凝集法で同じ4+でも抗Eの方が抗体価は高い(抗体量が多い)と判断することができます。しかし、輸血を前提としているなら抗体価は必須ではありません。それは、血液型特異性のある抗体(抗E、抗c、抗Dia、抗Fyb、抗Jka、抗Jkbなど)が検出された際には、輸血には抗原陰性血を使用します。抗体価が低いからランダムの輸血、抗体価が高いから抗原陰性血とはならないからです。従って、抗体価が必要なケースというのは、妊婦の場合にほぼ限られてきます。妊婦の場合は、児への影響を考慮しなければならず、抗体価が上昇することは、それだけ児へ移行する抗体が増えるため、児へ影響するかもしれないと考えるためです。

 従って、通常検出される不規則抗体が同定された際には抗体価測定が必須か、という答えは4+の反応強度なら、どの程度の抗体があるかを把握するため抗体価の測定は意義がありますが、3+以下では既にグレード分けできるため必須ではないということになります。酵素法やPEG-IATのみで2+程度の凝集の場合、抗体価を測定する意義はないことが理解できたかと思います。また、抗体価を測定する際には、試験管法で行い、使用する赤血球は抗体に対してヘテロ接合の赤血球を用いて、反応増強剤無添加の60分加温-間接抗グロブリン試験で行うのが一般的です。従って、PEG-IATのみ2+で60分加温-IATが陰性の場合、上記方法で抗体価を測定しても1倍以下になってしまいます。つまり、抗体価を測定するには60分加温-IATでも陽性であることが一つの目安です。

 

(豆知識)凝集強度が2+程度でも抗体価を測定する場合があります。2+〜3+の凝集においても256倍や512倍になる場合もあります。それは、HTLAの性質を示す抗Jra、抗JMH、抗Ch/Rgなどの抗体です。これらの抗体では2+程度の凝集であっても高力価になりますので、こういう種類の抗体の場合は抗体同定の一助になるため抗体価を測定する意義があります。

 

【参考ブログ】

・#013:間接抗グロブリン試験に用いる反応増強剤の(はてな?)

https://www.bloodgroup-tech.work/entry/2020/01/28/062433

 

・#070:不規則抗体の抗体価測定が必要になった際の(はてな?)

https://www.bloodgroup-tech.work/entry/2020/07/24/053720