血液型検査のサポートBlog

血液型検査(輸血検査)で生じる悩みや疑問(はてな?)をサポートする医療従事者向けのBlogです。

#013:間接抗グロブリン試験に用いる反応増強剤の(はてな?)

 不規則抗体同定において、反応が弱い抗体では試験管を観察(静かに振る)しているうちに凝集がなくなり判定に苦慮する場合があります。また、1+程度の凝集よりも2~3+以上の凝集があれば、輸血検査に不慣れな担当者でも判定に迷わないと誰もが思うことです。抗体を特定する際、非特異反応の影響が出ないようにしつつ強い反応のところで特異性を同定することが重要となります。ここでは、間接抗グロブリン試験を行う際に用いる反応増強剤の(はてな?)についてシェアしたいと思います。

  そもそも、抗原に対する抗体の親和性は、混合液中のpH、イオン強度、反応温度に影響します。通常の生理食塩液(0.9%NaCl溶液)のイオン強度は約0.15mol/Lであり低イオン強度溶液であるLISSを加えることによってイオン強度は0.09 mol/Lまで低下します、それによって抗原抗体反応が促進され、主にRh、Kidd、Duffy、Diegoなどの抗体検出感度が増強します。また、抗Mや抗Iの一部はpHが低い(pH6.5程度)の方が強く反応するため、血清よりも血漿で強い反応を示すのは、こうした理由があります(EDTA採血から得られた血漿とプレーン採血から得られた血清のpHを測定すると、血漿の方が低いため)。反応温度は、抗体親和性と反応速度に影響し、糖鎖抗原に対する抗体(抗A、抗I、抗P1など)は抗原・抗体反応が起こる際には水素結合による発熱反応のため、低温にすることで反応が増強します。一方、蛋白抗原に対する抗体(Rh、Kidd、Duffy、Diego など)では疎水性相互反応による吸熱反応であるため、37℃の方が低温よりも反応性が増強するのは、こうしたメカニズムが関与しています。例えば、抗D(ヒトが産生した抗体)では、4℃に比べて37℃の方が20倍も速く反応するというデータも示されています。

 現在、抗A及び抗B以外に臨床的意義ある主な血液型抗原に対する抗体の検出には間接抗グロブリン試験は必須です。反応時間を短縮する目的で様々な反応増強剤が用いられますので、それぞれの特徴を以下に記載します。これらの反応増強剤は、使用目的や存在する抗体の性質に合わせて選択することが重要です。

 

【22%ウシアルブミン溶液】高濃度(20~30%)のアルブミンを加えることで、特に抗Mや抗P1などの抗体の検出が上がります。アルブミンの作用は、赤血球への抗体結合を促進するわけではなく、感作赤血球同士の架橋を促進すると考えられています。通常は血漿(血清)2滴に等量の22%アルブミン溶液を加え、通常の食塩液法と同様に検査が可能です。引き続き間接抗グロブリン試験も可能なため、従来は汎用されてきました。しかしながら、アルブミン法は非特異反応(臨床的意義のない低温反応性抗体)の検出も多く、臨床的意義のあるIgG性抗体検出においては、LISSやPEGよりも劣るため、現在では使用することが少なくなりました。とくに連銭形成を呈する血漿(血清)を用いてアルブミン法を実施した場合は、さらに粘調度が増すため、γグロブリン等の赤血球抗体以外の非特異反応が出やすくなります。血液疾患、肝硬変、膠原病、骨髄腫等のM蛋白が出現するような患者さんの検査を行う際には非特異反応への注意が必要です。そのため、アルブミン法は反応が弱い抗Mや抗P1を明瞭に判定する目的で使用する程度に限られます。

【LISS(低イオン強度溶液)】抗原と抗体の反応はイオン強度を下げた場合、IgG性抗体の結合が促進することから、イオン強度0.03 mol/Lで調整した溶液で赤血球を浮遊し、そこに血清2滴を加えると、最終イオン強度が約0.09 mol/Lとなります。この0.09 mol/Lというイオン強度が抗原抗体反応には最適な条件となります。これよりもイオン強度が高い場合は、補体などが結合しやすくなるため、非特異反応を呈することになります。LISSを用いた方法は通常LISS間接抗グロブリン試験(LISS-IAT)であるが、この方法では赤血球への結合抗体がそれほど顕著に増加するワケではありません。60分加温-IATとLISS-IAT(10~15分)は同様の感度と考えられます。そのため、主に時間短縮の目的で使用されることが多いと思います。後述するPEG-IATに比べ抗体検出感度が若干低下しますが、非特異反応が少ない、自己抗体や連銭形成の影響を受けにくい、60分加温-IATに比べ時間が短縮出来る点などを考慮すると、日常検査においてはちょうどいい抗体検出感度と言えます。

【PEG(ポリエチレングリコール)溶液】輸血検査(不規則抗体検査)では、通常分子量が4,000程度のポリエチレングリコール(PEG)をPBSで20%溶液とし、被検血漿(血清)の2倍量(市販品の場合は等量)用いて使用するのが一般的です。PEGは蛋白質分子表面の水和水を奪い、抗原と抗体が隣接しやすくなるため反応が増強すると考えられています。現在のところ、輸血上問題となる抗体(臨床的意義のある抗体)の検出方法としてもっとも優れた方法である。また、通常PEGを用いる際には、単独系列で試験を実施します(生食法で遠心判定後に引き続きPEGを添加する方法は、非特異凝集反応を呈しやすいため)。但し、PEG-IATにはデメリットもあります。間接抗グロブリン試験に用いる抗ヒトグロブリン試薬は多特異抗体を用いると非特異的な反応を呈することが多く、通常抗IgG抗体を用いなければなりません。また抗赤血球自己抗体や冷式抗体なども増強させるため、低温反応性の抗HI、抗I、抗P1、(抗Mの一部)など本質的にはIgM型の抗体などが弱陽性として観察されることがあります。そのため、間接抗グロブリン試験で検出したいIgG型抗体との見極めが難しくなる面もあります。そのため、PEG-IATで弱陽性が観察された場合には、必ず低温反応性の抗体の有無を確認することを忘れてはいけません。

【無添加60分加温間接抗グロブリン試験】もっとも古典的な方法ですが、血漿(血清)由来に起因する非特異反応の影響を極力下がられる方法と言えます。また、強い冷式自己抗体(抗Iなど)や温式自己抗体の影響を低減し、輸血上問題となる抗体検出には良い方法です。但し、60分加温という時間が臨床の現場では長いため、現在では反応増強剤を添加し、時間を短縮した方法に移行しているのが現状です。但し、60分加温-IATを実施することによって抗体同定の手かがりとなる場合もあります。例えば高頻度抗原に対する抗体のうち、HTLAの性質を示す抗体(抗Jra、抗JMH、抗KANNO、抗Ch/Rg、抗Knopsなど)では、PEG-IATやLISS-IATと比べて、凝集強度が同等もしくはそれ以上強く反応します。これらは抗体同定の際の手がかりとなります。自己対照赤血球が陰性で、検査した殆どの赤血球と陽性の場合は、60分加温-IATを実施することは、60分という時間を費やしても得られる情報は多く、抗体同定をスムーズに解決する場合もあります。