血液型検査のサポートBlog

血液型検査(輸血検査)で生じる悩みや疑問(はてな?)をサポートする医療従事者向けのBlogです。

#070:不規則抗体の抗体価測定が必要になった際の(はてな?)

 通常、輸血を行う際には、ABO及びRhD血液型検査とともに主な血液型抗原に対する不規則抗体スクリーニング(以下、抗体Scr)が実施されます。抗体Scrで陽性を示した場合は引き続き抗体同定作業を行い、検出された抗体の臨床的意義を考慮し輸血用血液製剤が選択されます。ここでは、不規則抗体の抗体価測定が必要になった際の(はてな?)についてシェアしたいと思います。

 輸血を前提とし、抗体の特異性が明らかな場合は、抗体価に関わらず抗原陰性血が選択されるため抗体価測定は必須ではありません。例えば抗Eが検出された際に抗体価が2倍以下であればランダム血液で対応し、4倍以上であればE-型の陰性血ということはないからです。つまり、臨床的意義がある抗体が検出されれば抗体価に関わらず陰性血が選択されます。従って、抗体価測定が必要なケースとは、妊婦が不規則抗体を保有した場合又はABO不適合妊娠の場合に限定されてきます(ABO不適合妊娠については別の記事でシェアします)。妊婦の場合は、IgG性の抗体が胎盤を通過し、児体内へ移行、胎児・新生児溶血疾患(HDFN)を発症する危険性があるため、母親抗体価をモニタリングする意義があります。妊婦に抗体が検出された際には、妊娠28週くらいまでは月に一回程度、その後は2~4週間間隔で抗体価測定が必要になる場合があります。妊娠後期に抗体価が上昇した場合は、1~2週間間隔で検査が推奨されています。しかし、抗体価測定に使用する赤血球の抗原タイプ及び検査方法については、意外と迷うことがありますので標準的な考え方をシェアしたいと思います。

 そもそも、妊婦が不規則抗体を保有するケースは、初回の妊婦又は妊娠前の輸血によって抗体を保有することがあります(勿論、抗M、抗P1のように自然抗体の場合もある)。妊婦が抗体を保有する例は、妊婦の血液型が陰性抗原に対して、父親由来の抗原を受け継いだ第一子目の妊娠によって抗体が産生されます。例えば、母親はR1R1型(D+C+E-c-e+)で、父親がR1R2型(D+C+E+c+e+)の場合、子供は、R1R1型(/DCe/DCe)又はR1R2型(/DCe/DcE)のいずれかになります。このケースで母親が抗E(and/or抗c)を保有し、児がR1R2型(D+C+E+c+e+)の場合、IgG性の抗E又は抗cは胎盤を通過し、児赤血球を破壊する可能性が出てきます(血液型不適合妊娠)。このようなケースで通常は母親の抗E(and/or抗c)の抗体価測定が必要になってきます。この時に抗体価測定に使用する赤血球の表現型は、Eがヘテロ接合のR1R2型(D+C+E+c+e+)で、検査方法は反応増強剤無添加の60分加温間接抗グロブリン試験(以下、60分-IAT)を行います。母親が保有する抗体に対して、児の血液型抗原は必ずヘテロ接合になるためです。抗Fybを保有した際にはFy(a+b+)型を、抗Diaを保有した場合はDi(a+b+)型の赤血球を用いるのが一般的です(可能であれば数例プールが望ましい)。

 妊婦の抗体価を調べる意義は児への影響です。従って児の表現型と同じ赤血球を選択することがリアルな予測になります。また、PEG等の反応増強剤を添加した場合は抗体価が高めに出てしまい、他施設へ転院した際にデータの比較が出来なくなることもあります。60分-IATで4倍程度の抗体価の抗体も、例えば、E抗原がホモ接合のR2R2型(D+C-E+c+e-)を用いてPEG-IATを実施した場合は、(w+の凝集まで拾ってしまうと)32~64倍程度になることもあるので注意が必要です。また、妊婦の抗体価測定では抗体価の変動が重要になります。しかし、毎回同じ赤血球を使用することは現実的に難しいことから、前回(2週間~1ヶ月前)採血した血漿(血清)を同時に検査することで赤血球抗原量のばらつきによる抗体価の変動要因を解釈することが出来ます。つまり、一ヶ月前の検査で抗体価が4倍だったが今回の検査で8倍だった場合に、今回同時に実施した前回採血検体も8倍であれば、前回と抗体価に変動がなく、今回使用した赤血球によって若干抗体価が高くなったという解釈ができます。

 抗体価測定のこの考え方は、妊婦以外で抗体価を測定する場合も同様の対応で問題ありません。逆に、抗体価にホモ接合の赤血球を用いるのは好ましくない理由は、血清学の表現型でホモ接合に見えても、遺伝子タイプでは稀にnull遺伝子との組み合わせでヘテロ接合の抗原量しかない場合があるためです。例えば、Fy(a-b+)はFyb抗原がホモ接合に見えますが、FYA/- の場合も表現型はFy(a-b+)になります。DcE/D- -の場合も表現型はR2R2型(D+C-E+c+e-)として扱われます。このような赤血球を使用することは稀ですが、意識してヘテロ接合赤血球を選択することで抗原量のばらつきの少ない赤血球を選択していることになります。また、複数の抗体が存在する場合に、常にホモ接合の赤血球を準備することが難しいこともあるためです。

 

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