血液型検査のサポートBlog

血液型検査(輸血検査)で生じる悩みや疑問(はてな?)をサポートする医療従事者向けのBlogです。

#150:輸血検査のQ&A(抗原陰性血が必要な抗体とは?)

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 通常、赤血球輸血を行う際には、患者とABO及びRhD血液型が同型の血液と交差適合試験を行い、陰性であれば輸血が実施されます。しかし、患者が過去に妊娠歴や輸血歴がある場合には、同種免疫によって赤血球抗原に対する抗体を保有している場合があり、交差適合試験で陽性になる場合があります。そのため、交差適合試験に先立って、通常は不規則抗体スクリーニングを実施し、陽性であれば引き続き抗体同定を行い保有抗体の特異性を決定します。同定された抗体が臨床的意義ある抗体であれば、輸血には対応しない赤血球(=対応抗原が陰性の血液)が選択されます。ここでいう臨床的意義のある抗体とは、保有する抗体が反応する(抗原陽性の)赤血球を輸血した際に、その血液が体内で破壊される原因となる抗体のことです。このような抗体の殆どがIgG性の抗体であるため、間接抗グロブリン試験(以下、IAT)を実施することで判別ができます。レアな例を除けば、通常、日常検査で検出される抗体は、抗C、抗E、抗c、抗e、抗M、抗N、抗S、抗Lea、抗Leb、抗P1、抗Fyb、抗Jka、抗Jkb、抗Dia、抗Xgaなどがあります。この中で臨床的意義が低い抗体(抗N、抗Leb、抗P1、抗Xga)は抗原陽性の血液が輸血されても輸血した赤血球を破壊することがないことから陰性血としては除外されます。逆に、抗C、抗E、抗c、抗e、抗M、抗S、抗Lea、抗Fyb、抗Jka、抗Jkb、抗Diaが同定された場合には、抗体価の有無に関わらず抗原が陰性の血液(抗原陰性血)を選択し、輸血することになります。勿論、抗Fya、抗Dibなどの高頻度抗原に対する抗体が検出された際にも陰性血が必要ですが、これらはまれな血液型として取り扱うため、ここでは詳細なことは割愛します。

 基本的にIgG性の抗体が輸血には重要であることが理解されたと思います。従って、抗体検査及び交差適合試験には、IATを実施することが必須であることも理解されたと思いますが、一つだけ注意点があります。現在実施されているIATは、従来の60分加温-IATよりも感度増強や時間短縮の目的で、ポリエチレングリコール(通称PEG)を添加したPEG-IATが多くの施設で取り入れられています。PEG-IATは、確かに弱い抗体を検出するのに向いていますが、低温反応性の抗体を持ち越す場合もあります。つまり、本質的には低温でしか反応しないIgM性抗体においても、PEG-IATで弱陽性になるということです。PEG-IATのみ実施している場合には、その反応パターンが例えば抗P1や抗Lebと合致すると、IgG性の抗体と勘違いする可能性があるということです。従って、通常臨床的意義のある抗体以外の特異性がみられた場合には、基本に戻って反応増強剤無添加のIATを実施してみることも重要となります。

 

【参考ブログ】

・#015:不規則抗体同定の必要性の(はてな?)

https://www.bloodgroup-tech.work/entry/2020/02/01/190355

 

・#101:ケーススタディー(Episode:01)PEG-IAT弱陽性の時はまずはSal法を実施する(抗P1)

https://www.bloodgroup-tech.work/entry/2020/12/21/052658