血液型検査のサポートBlog

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#101:ケーススタディー(Episode:01)PEG-IAT弱陽性の時はまずはSal法を実施する(抗P1)

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 不規則抗体同定において、全ての赤血球と陽性ではない場合は、まずは消去法によって抗体の推定を行うこと、そして被検者の主な血液型(表現型)を調べることが可能であれば、血液型(表現型)に基づいて抗体保有の可能性を否定することを行うことである程度抗体の絞り込みが行えます。しかし、臨床的意義ある抗体は間接抗グロブリン試験で検出される、ということだけに気を取られると、単純な抗体であっても見逃したり、間違った同定をしたりする時があります。また、本質的に低温反応性の抗体であっても抗体価が少し高い抗体では、PEGなどの反応増強剤を添加した間接抗グロブリン試験では持ち越し現象で弱陽性となります。

 今回のケースでは、主要抗原のタイピングが行われており、血液型(表現型)に基づいて考えた際に、保有する可能性がある抗体は、抗E、抗c、抗Jkb、抗N、抗P1ということになります。DuffyとSsについては調べられていませんが、日本人の頻度から考えると、Fy(a+b-)、S-s+と考えると、抗Fybと抗Sはマークしなければなりません。

消去法によって、主な血液型抗原に対する抗体はホモ接合の表現型赤血球との反応から否定されています。では、消去法によって残った抗Kと考えて良いか?となると、ここで、一旦確認すべきことがあります。今回の検査は臨床的意義のある抗体検出が可能なLISS-IAT、PEG-IAT、60分加温-IATを実施していることから、IgG性の主な血液型抗原に対する抗体はほぼ否定的と考えますが、低温反応性の抗体持ち越しに関する検査が不十分と考えられます。従って、生食法(Sal)室温又は4℃で出る抗体を否定しておく必要があります。とくに、P1、I、Hなどの糖鎖抗原は個々の赤血球で抗原量にばらつきがあり、強い抗体であれば抗原陽性赤血球全てとパターン通りに反応しますが、弱い抗体では、抗原量の多い赤血球とのみ反応する場合があります。そしてSal法で強く反応した赤血球ではPEG-IATなどで弱陽性に出てくる場合があります。今回LISS-IATは陰性であり、抗Kと決めつけるのはもう少し検査を進めてからとなります。

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 Sal法(22℃、15分)の反応を観察したところ、反応の強弱はあるものの抗P1の特異性が確認されました。この凝集のばらつきは糖鎖抗原の特徴(特に抗P1、抗I、抗HIなど)でもあります。さらに特異性をはっきりさせるには、抗体の特徴を活用して低温下(4℃、5~10分)での反応を観察することです。これで抗P1のはっきりした特異性が確認できます。なお、4℃に長時間静置するのは、抗I(寒冷凝集素)などの他の冷式抗体の反応を増強するため禁物です。

結論から言えば、低温反応性の抗P1を保有していました。そしてP1抗原量の多い赤血球(P1とP3の赤血球)とはPEG-IATで弱陽性になりました。PEG-IATのみの反応で判断しようとすればIgG性の抗体と勘違いしてしまう一例です。

抗Kの肯定と否定は、K+型赤血球を酸処理又はDTT処理し未処理赤血球との反応性から鑑別します(Kell抗原は、酸処理又はDTT処理で破壊されるため反応が陰性になります)。又は、P1抗原が陰性でK+型赤血球との反応をPEG-IATで確認することで抗Kの有無を判断します。なお、日本人のK抗原はほぼ陰性であるため、輸血によって抗体が産生されることは非常に稀です。Kell抗原に対する抗体(抗K、抗Kpaなど)は、時々自然抗体として検出されます。

 

【関連blog】

・#012:PEG-IATが弱陽性の場合の(はてな?)↓↓↓

https://www.bloodgroup-tech.work/entry/2020/01/25/070412

 

・#054:P1PK血液型とGloboside血液型の(はてな?)↓↓↓

https://www.bloodgroup-tech.work/entry/2020/05/21/063013