血液型検査のサポートBlog

血液型検査(輸血検査)で生じる悩みや疑問(はてな?)をサポートする医療従事者向けのBlogです。

#139:輸血検査のQ&A(抗A又は抗Bの吸着解離が必要なケースは?)

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ABO血液型判定のオモテ検査は、被検者赤血球と抗A及び抗B試薬との反応性(凝集の有無)から決定されます。しかし、赤血球上のA又はB抗原が非常に少ない亜型では抗A又は抗B試薬と直接凝集反応を呈さず、一見抗原が無いように見えてしまいます。例えば、日本人から多く検出されるBmのケースでは、本来B型であるにも関わらず、オモテ検査の反応は、抗A:陰性、抗B:陰性のO型となり、ウラ検査(血漿側の検査)では、A1赤血球:4+、B赤血球:陰性のB型となるため、オモテ・ウラ不一致の結果となります(オモテA、ウラABのA1Bmも同様)。このような場合に抗Bを用いて吸着解離試験を行い、赤血球上に微妙に存在する抗原(ここではB抗原)を証明するのが吸着解離試験です。証明したい抗原に対する抗体、ここでは抗B試薬を赤血球に感作し、次に熱解離で感作(結合)した抗体を解離して解離液の中に抗Bの特異性があれば抗Bが感作した感作(結合)したことになりますので、B抗原が存在したことになります。一方、解離液とA1、B赤血球との反応が陰性の場合、抗Bは赤血球に感作しなかった=B抗原がなかった、ということになります。

吸着解離試験は非常に感度が高く、O型赤血球沈渣1mLに3%B型赤血球浮遊液1滴を加えて、その後抗B試薬で吸着解離試験を起こった際、解離液の反応は、B型赤血球と4+(抗体価8〜16倍程度)を示します。3%B型赤血球1滴に含まれるB型赤血球沈渣はおよそ2μL程度です。従って、1/400〜1/500量の赤血球が混在(1%以下の混在)していただけで解離液から抗Bの特異性が認められます。他にも血液型キメラで割合の少ない方の抗原を証明する際にも吸着解離試験は行われます。例えば、A:O=1:99の場合、オモテ検査はO型になります(1%の混在は通常の検査ではO型に判定される)。この血液を抗Aで吸着解離すると、解離液から抗Aの特異性が確認されます。

使用する抗A、抗B試薬については、ヒト由来の抗体が望ましいのですが、現在入手できる(市販されている)のはモノクローナル抗体のみです。従って、モノクローナル抗体を使って検査するしかありません。モノクローナル抗体試薬は高力価であり、通常の表現型の検査においては全く問題になりませんが、亜型赤血球との反応性は各試薬メーカーによって異なります。

モノクローナル抗体試薬(抗A、抗B)を用いて吸着解離試験を行う際に、注意したいことは、非特異反応です(O型なのに、解離液から抗Aや抗Bの特異性が出る)。これを回避するためには、①使用する抗A又は抗B試薬は2倍程度に希釈したものを使用する。②吸着する時間は室温で2〜3時間に留める。③感作後の洗浄はボルテックスなどを用いて念入りに行う。この3つによって、非特異反応は低減されます(自験例)。とくに①については、微量な抗原を上手に検出するには、抗体価が高ければ良いというわけではありません。抗原-抗体反応には一定の最適比があり、抗体過剰状態では抗原に結合しない地帯現象を生じる場合もあります。512倍程度の抗体価があれば、検出すべきものは十分検出します。むしろ、高力価の方が検出感度は上がると考えて過剰な抗体を感作したために、非特異的に抗体が結合し、その後の洗浄操作でも残ってしまい、結果として解離液から弱い(1+程度)凝集(特異性)が出て悩む(抗原があるのか、それとも非特異反応なのか)ことになります。モノクローナル抗体を用いて吸着解離試験を行う際には、従来のポリクローナル(ヒト由来)抗体を使用した方法と同じように実施すると、うまくいかない場合もあるため少し注意が必要です。

 

【参考Blog】

・#091:モノクローナル抗A、抗Bの非特異反応の(はてな?)

https://www.bloodgroup-tech.work/entry/2020/10/21/052132

 

・#092:唾液検査に使用可能なモノクロ抗A、抗Bの(はてな?)

https://www.bloodgroup-tech.work/entry/2020/10/26/055734