血液型検査のサポートBlog

血液型検査(輸血検査)で生じる悩みや疑問(はてな?)をサポートする医療従事者向けのBlogです。

#138:輸血検査のQ&A(亜型は遺伝子検査のみで確定できるか?)

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ABO血液型には多種の亜型が存在しますが、血清学検査で亜型を分類するには多くの経験と亜型に関する知識が必要になります。抗A、抗Bのオモテ検査の反応性、スライド法による部分凝集の有無、ウラ検査の不規則性抗A1又は抗Bの有無、吸着解離試験、血漿中の糖転移酵素活性、唾液中の型物質量など、様々な検査を組み合わせて亜型のカテゴリーを分類しますが、上記検査を全て行ったからといっても常に亜型判定ができるとも限りません。同じカテゴリーであっても抗原量が微妙に異なり常に迷いが生じます。赤血球上の抗原量が少ないことはわかっても、亜型のカテゴリーを分類する明確な基準がないことが難しい要因となっています(A3、B3では部分凝集を認めるとか、Ax、BxではO型個体が持つ抗A,Bとの反応性が上がるなどはありますが)。

血清学検査で判定に迷った場合にABO遺伝子検査は、判定の一助になることは間違いありません。但し、遺伝子検査のみ(血清学検査をしない)で亜型を判定することは一部の例外を除いてはできません。そもそも血液型の判定は、ヒト同種抗体によって判定(血清学で判定)されるのが原則だからです。日常的に実施されているABO遺伝子検査(PCR-SSP法など)の多くは、ABO遺伝子の違いを数カ所の塩基の違いで鑑別する方法のため、通常の表現型のABO判定はある程度正確に判定できても、亜型を全て判定することは難しくなります。ABO遺伝子は現在では200種類以上の対立遺伝子が存在します。そして、一つの表現型から複数の対立遺伝子が認められています(ここが重要)。例えば、A2、A3と血清学で分類しても、遺伝子検査を実施するとどちらも同じ対立遺伝子であることもしばしばあります。例え遺伝子を同定したとしても、表現型と一致するとは限らないということです。ABO遺伝子は、赤血球上の土台となるH抗原(フコース)にNアセチルガラクトサミン(A抗原)やガラクトース(B抗原)を付加させる糖転移酵素(タンパク)をコードする遺伝子です。ABO遺伝子の直接産物としてAやB抗原を生合成しているわけではありません。従って、同じ活性を有する転移酵素であっても、土台となるH抗原の多い少ないで、最終的なA、B抗原量も異なってきます。ここがある対立遺伝子(ABO遺伝子)と抗原が1:1にはならない理由の一つです。RHDRHCE遺伝子などのように遺伝子の直接産物が抗原(蛋白)そのものであれば、遺伝子変異の違いが抗原量の違いになりますが、ABOの場合はそうではないので遺伝子だけで表現型をある程度推定することは可能ですが確定することはできません。

但し、Bm、cisA2B3などのように、表現型に対応する対立遺伝子がほぼ決まっている場合は、遺伝子解析でもある程度決めることができます。

 

【参考Blog】

・#007:ABO遺伝子の(はてな?)

https://www.bloodgroup-tech.work/entry/2020/01/11/201101

 

・#064:Bm型とB/Oキメラの鑑別には遺伝子検査が有用の(はてな?)

https://www.bloodgroup-tech.work/entry/2020/06/29/052811

 

・#065:A2型及びA3型は主にエキソン7内の一塩基置換で生じるの(はてな?)

https://www.bloodgroup-tech.work/entry/2020/07/03/054525

 

・#116:ケーススタディー(Episode:16)不規則性の抗Bを保有するAB型の亜型(cisA2B3

https://www.bloodgroup-tech.work/entry/2021/02/21/052324