血液型検査のサポートBlog

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#091:モノクローナル抗A、抗Bの非特異反応の(はてな?)

 ABO血液型の亜型が疑われた際には、抗A、抗Bによる凝集の強弱(凝集開始時間)や部分凝集反応の有無が観察され、必要に応じてレクチンとの反応性、爪又は唾液中のABH型物質、血漿中糖転移酵素活性などの追加検査が行われます。抗A、抗Bと直接凝集を示さない亜型については、吸着・解離試験は欠かせない検査法です。ここでは、モノクローナル抗A、抗Bの非特異反応の(はてな?)についてシェアしたいと思います。

 以前(20年前)、ABO血液型判定用抗A、抗B試薬は、高力価の抗A又は抗B抗体を有する人から得た血清、又はAあるいはB抗原を有する赤血球で動物に免疫して得た血清から調製され、市販されていました。しかし、各社ともモノクローナル血液型判定用抗体(以下、Mo-Ab)に移行し、現在ではヒト由来血液型判定用抗体(以下、Hu-Ab)を入手することができません。Mo-Abは通常の血液型判定において問題となることはありませんが、亜型赤血球との反応性がHu-Abとは異なる例が報告されています。また、現在でも教科書に記載されている亜型分類の反応表はHu-Abに基づく反応性であるため、現在使用しているMo-Abとの反応態度とは乖離することもしばしばあります。

 抗A又は抗Bと直接凝集反応を示さない(又は微弱な反応)の精査において、吸着・解離試験は赤血球上に微量に存在する抗原の有無を調べる重要な検査方法であり、信頼性の高い成績が求められます。しかし、吸着・解離試験の解離液中の抗体を比較すると、Mo-AbはHu-Abに比べ反応性が弱く、時々陰性となる場合(A1Bmなど)もあります。また、Mo-Abを使用して吸着・解離試験を実施した際には、本来解離液から出るはずの無い抗体が検出される例(例えば、抗Aや抗BでO型検体を吸着・解離した際に、解離液に抗A、抗Bが検出される例)があります。とくにMo-Abを用いた爪や唾液のABH型物質を調べる場合、ある一定の頻度で非特異反応が出現します。ここでは、その例についてシェアします。

 そもそも、ABHの糖鎖構造であるコア糖鎖は、末端部のGalの結合がβ1,3結合のものをⅠ型、β1,6結合のものをⅡ型と呼んでいます。造血組織ではⅡ型のコア糖鎖からA,B抗原が生合成され、唾液、爪、血漿中の型物質はⅠ型糖鎖からA,B抗原が生合成されます。この詳細については、「#004:唾液中のABH型物質の(はてな?)」をご覧下さい。一方、Mo-Abは、ヒト赤血球をマウスに免疫し、抗体産生細胞(Bリンパ球)と増殖能力を持つミエローマ細胞を融合させたハイブリドーマ細胞で大量に抗体を産生させたものです。従って、Hu-Abとは異なり高品質な抗体を大量に産生出来るメリットがあります。赤血球を免疫源にしていることから、当然産生された抗体はⅡ型糖鎖から成るA、B抗原を強く認識し反応します。従って、Ⅰ型糖鎖から生合成されている唾液、爪、血漿中の型物質とは反応性が異なることはある程度予測しなければなりません

 今回紹介する例は、爪を用いた吸着・解離試験の例です。[SL.1]に示すように特異性に関しては問題ありませんが、非特異反応については、ある一定の頻度で出現します[SL.2]。抗Aよりも抗Bで非特異反応が多く観察され、A型又はO型にMo-Ab(抗B)を感作した場合、その解離液から抗Bが解離されてくるという意味になります。Mo-抗Aであれば、O型10検体中1検体、Mo-抗BであればO型10検体中2検体程度は非特異的に抗体が結合していることになります。Hu-Abと比較してもMo-Abは非特異発生率が顕著に高いことが分かりました。

 この結果を、例えばBm型やA1Bm型を判定する際の赤血球の吸着・解離試験にそのままあてはめることは出来ませんが、Mo-Abではこのような非特異反応がある一定の頻度で出現することは知っておく必要があります。Bm型及びA1B型は日本人から最も多く検出される亜型であり、その判定(血清学検査)において吸着解離試験は欠かせません。また、抗A、抗Bと直接凝集反応が微弱なAx型やBx型の際にも吸着・解離試験を行う場合があります。検査を実施する際には、非特異反応を可能な限り抑えるために以下のことをお勧めします。①感作後の洗浄操作は、ボルテックス等を用いて非特異的に赤血球に結合している抗体を外す。②解離液とA1型及びB型赤血球浮遊液との確認の際には未処理赤血球を用いる(陰性の場合に感度を上げる目的でブロメリン溶液等を加えると、未処理赤血球では反応しなかった弱い抗体が出てしまうため)。③反応が弱い場合は、酵素処理赤血球を使用するのではなく、解離液を2滴から3滴にして室温(15~30分)放置後に遠心判定する。④既知のO型検体を必ず対照検体として同様に検査する。

 最後に、現在使用している市販品Mo-Abでは、Bm型はMo-抗Bと2~3時間の感作で問題なく判定可能です。解離液の反応もB型赤血球と3+~4+を示します。一方、A1Bm型では、解離液の反応が1+~2+であるため、非特異反応と区別が付きにくくなる場合もあります。従って、血漿中B転移酵素活性の有無などと合わせて総合的に判定する必要があります。

 

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