血液型検査のサポートBlog

血液型検査(輸血検査)で生じる悩みや疑問(はてな?)をサポートする医療従事者向けのBlogです。

#092:唾液検査に使用可能なモノクロ抗A、抗Bの(はてな?)

 ABO血液型精査において、亜型や血液型キメラを決定する一助として唾液中の型物質を調べる検査があります。唾液中の型物質や爪のABO型は生涯変わらないため、造血幹細胞移植後や血液型キメラの場合に被検者本来の血液型を調べるには有用な検査となります。唾液検査の基本原理は、適度に希釈した抗A及び抗B試薬が唾液中の型物質で中和されることで型物質の存在を調べる検査であるため、使用する抗A及び抗B試薬が唾液中の型物質で中和されなければ正しい結果が得られません。ここでは、唾液検査に使用可能なモノクロ抗A、抗Bの(はてな?)についてシェアしたいと思います。

 唾液検査の概要については、「#004:唾液中のABH型物質の(はてな?)」をご覧下さい。唾液検査は古典的な検査であり、血液型の遺伝子検査が可能な現在でも必要な検査か?と疑問を持つ人がいるかもしれませんが、唾液中に含まれるABH型物質は、亜型個体では赤血球上の抗原が少ないのと同様にABH型物質も少なくなります。これが亜型の一つの特徴と位置づけられてきました。亜型であるBm型、A1Bm型では抗Bとは直接凝集を示さず、唾液中には通常と同様にB型物質が検出されるということが逆に特徴とされてきました(分泌型個体の場合)。血液型キメラの際には、本来の血液型を決める検査の一助となります。通常行っている血液型遺伝子検査では、血液(白血球)からゲノムDNAを抽出して検査を行うため、造血幹細胞移植後や血液型キメラでは、本来の血液型を調べることにはなりません。このような理由から、唾液検査は古典的な検査であるものの過去から現在までABO精査には欠かせない検査の一つとなっています。しかし、唾液検査を行う上で注意すべき点もあります。①非分泌型個体では唾液中に含まれる型物質量が微量であるため、通常行っている凝集抑制を用いた検査では正確に型物質を検出できない場合があること。②使用する抗A及び抗Bは現在モノクローナル抗体となり、従来用いられていたヒト由来抗A、抗Bとは反応性が異なることがあります。とくに②については市販品抗A及び抗B試薬の特性(唾液検査に関すること)が十分ではないため、急遽唾液検査を行いたいと思ってもうまくいきません。また、教本等には原理や手技は記載されているものの、どのメーカーの抗体を使用して、どの程度希釈すれば良いか等の参考情報もないため、結果として唾液検査はスルーされる傾向にあります。

 この記事では、現在市販されている5社のモノクローナル抗A及び抗Bと健常人から検出した高力価の抗A及び抗Bを用いて唾液中の型物質による抑制の度合いを調べました。検討内容としては、通常の表現型と亜型(ABH分泌型及び非分泌型を含む)の複数例を対象としました(今回はその一部を示します)。凝集抑制に使用する抗A及び抗B抗体は、全て同じ抗体価(16~32倍程度)に希釈調製します。10本の試験管を準備し、被検唾液を1⇒10までPBSで2倍希釈します。その後、全ての試験管に希釈した抗体を一定量(50μL)加え、室温で30分間静置後します。A型又はB型の3~5%赤血球浮遊液を1滴ずつ加えて、よく攪拌後に遠心判定しました。この状況では、試験管の1⇒10番目に向かって型物質が少なくなります。加えた抗A又は抗Bは一定のため、型物質がなくなった時点で凝集が起こります(消費されずに残った抗体が反応)。凝集が抑制されたポイントの希釈倍数を凝集抑制価としました。結果は[SL.1、SL2]に示す通りです。

 この検討は従来使用していたヒト由来抗A及び抗Bを基準に比較しています。表中の青色または黄色マーカーは、従来のヒト由来抗体と同等以上の抑制があったことを意味します結論からいうと、モノクロ抗AのMo-3、モノクロ抗BのMo-1とMo-3は唾液検査に使用するには難しいという結果になります。つまり、唾液中に型物質が存在していても型物質が無いように判定されてしまう、ということになります。これは、使用する抗体の抗体価を変化させても同様の結果であり、そもそも唾液中の型物質とは相性が悪いということです。相性が悪いというのは、モノクロ抗体はⅡ型糖鎖構造の赤血球を免疫して作製された抗体であり、Ⅰ型糖鎖構造を持つ唾液中の型物質とは反応が悪いということです。[SL.1、SL.2]を見て分かるとおり、同じ抗体価に調製しても全ての抗A又は抗B試薬が唾液中の型物質を同じように抑制するわけではないことを理解する必要があります。健常人由来(Hu-XX)についても同様に、人由来だから唾液検査に使用可能というワケでもありません。従って、唾液検査を実施する際には、使用しているモノクロ抗A及び抗Bが分泌型の唾液で抑制されることを確認し、使用する必要があります。

 

f:id:bloodgroup-tech:20201017172434j:plain