血液型検査のサポートBlog

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#127:ケーススタディー(Episode:27)抗Dを用いたIAT判定の凝集像が特徴的なRhD血液型キメラ

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 RhD血液型の判定は、輸血検査の日常検査では通常ABO血液型と一緒に実施されています。日本人ではRhD陽性頻度が高く、RhD陰性は約0.5%程度(200人に1人程度)であるため、殆どは抗D試薬と陽性を示すRhD陽性となります。試験管法で実施する場合は、抗D試薬と被検者の赤血球浮遊液を反応させて遠心判定(直後判定)で陽性の場合はRhD陽性と判断し検査が終了します一方、陰性の場合は、真のRhD陰性又はweak DなどのD抗原量が少ないRhD亜型の可能性が示唆されるため、引き続き間接抗グロブリン試験(IAT)を用いたD陰性確認試験を行い最終判定を行います。IAT判定が陰性の場合はRhD陰性と判定します。IAT判定が1+~3+程度の場合はweak Dや一部のpartial Dの可能性があるため本質的にはRhD陽性ですが精査を実施することになります。

 時々、直後判定で1+程度を示したにも関わらず、IAT判定でも同程度の凝集しか観察されない例に遭遇する場合があります。通常、IAT判定は感度が高いため、直後判定で1+以上の凝集がある場合はIAT判定で4+の凝集が観察されます。それにも関わらず1+~2+という場合には、D+とD-の血液型キメラを疑う必要があります。ABO血液型は正常であっても、RhDのみキメラになっている場合もあります。D+/D-のキメラのIAT判定では、凝集部は通常のD+と同様に試験管底から凝集塊が剥がれてきますが、抗Dと反応しないD-集団は、試験管を静かに振っていくと静かに流れ始めて背景が赤く濁ってきます。そのため、部分凝集として観察されます。また、D+の混合割合が20~30%であれば、凝集部が少ないためセルボタンの端がギザギザになり剥がれるため、一見weak Dのような凝集像にも見えてきます。このような検体に遭遇した場合には、抗DをPBS(又は生理食塩液)で2倍連続希釈系列を作製し、抗Dによる被凝集価測定を行うことも解決の糸口となります。例えば、典型的のweak Dは抗Dとの直後判定が陰性で、その後IAT判定を行った場合は2+~3+になりますが、被凝集価はせいぜい4倍~16倍程度です(対照D陽性は512~1,024倍)。従って、例えば直後判定が陰性(又は弱陽性)でIAT判定で64倍以上になれば、何か不自然と考えた方が良いでしょう。というのも現在市販されている抗D試薬の多くは、IgM+IgGの抗D試薬であるため、IATによる被凝集価が32倍以上ある赤血球では、直後判定においても2+~3+程度反応します(IgMによる反応)。IATで64倍以上ある赤血球が直後判定で陰性又は1+程度という結果は不自然ということになります。

 

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 今回の検体をフローサイトメトリー(FCM)を用いてD抗原解析を行うと、抗Dと反応するD陽性の集団と抗Dと反応しないD陰性の集団に分かれることが確認されます。血液型キメラの場合には、他の血液型にも不一致を生じていることがあるため、D+とD-の集団について、それぞれRh表現型を確認してみることにしました。

 

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 FCM解析の結果、D+赤血球のRh表現型はR1R2(D+C+E+c+e+)型、D-赤血球はr”r”(D-C-E+c+e-)型であることが分かり、RhD以外にも不一致が生じていました。この時点で2つ以上の血液型の不一致があることから、この検体は血液型キメラということになります。但し、血液型キメラであっても必ずしも他の血液型が不一致になるとは限りません。Dのみが不一致で、C,E,c,eが同じ表現型という場合もあります。その場合は、血液型キメラとD抗原減弱を考慮して慎重に判定する必要があります。

 

【関連blog】

・#002:血液型キメラの(はてな?)

https://www.bloodgroup-tech.work/entry/2020/01/04/091204

 

・#086:RhD陽性とRhD陰性の血液型キメラの鑑別の(はてな?)

https://www.bloodgroup-tech.work/entry/2020/09/29/053834