血液型検査のサポートBlog

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#086:RhD陽性とRhD陰性の血液型キメラの鑑別の(はてな?)

 ABO血液型のオモテ検査において抗A又は抗Bと部分凝集を示し、精査の結果、血液型キメラであることが判明することが時々あります。その際、抗A、抗B等を用いて凝集部又は非凝集部に分離し、それぞれの集団を検査するとABO以外にも不一致を認める場合があります。また、ABO血液型には異常(部分凝集)はなく、抗D試薬とのみ反応が弱い又は凝集の崩れ方に違和感を生じる場合があります。このような場合は、weak D又はD+/D-の血液型キメラを疑う必要があります。ここでは、RhD陽性とRhD陰性の血液型キメラの鑑別の(はてな?)についてシェアしたいと思います。

 ABO血液型キメラの詳細については、「#002:血液型キメラの(はてな?)」の記事をご覧ください。D+/D-キメラの検出のきっかけは、RhD血液型判定の際に、抗D試薬との即時判定において、弱陽性(w+~2+)を示し、その後のD陰性確認試験(間接抗グロブリン試験:IAT)においても、1+~2+程度の凝集を呈することで、何かおかしい?(即時判定とIATの強さが同じなのはおかしい)と気づくか、即時判定が陰性でIAT判定の際に、試験管を静かに振り始めると試験管底から一枚のシート上に剥がれる凝集とD陰性判定の際に見られる様なセルボタンから赤血球が静かに流れ、背景が赤く濁る様子が観察され、何かおかしい?と気がつくと思います。

 このような凝集が観察された際、多くの人はweak D又はpartial Dの可能性が高いと考えますが、仮にweak Dだとすると、即時判定で1+以上の凝集が観察されれば、IATでは3+~4+の凝集が観察されます。即時判定とIATが同じ程度の凝集になるのは不自然となります。また、市販されている多くの抗D試薬は、IATでpartial D をD陽性と判定できるようにポリクロ抗D(IgG抗D)が含まれているため、例えpartial Dのため即時判定が弱陽性であってもIAT判定は正常に判定されるはずです。さらに、weak Dやpartial Dであれば、RhD抗原量が正常表現型よりは低下しているため、IAT判定の際に、セルボタンが一枚のシートや管底に張り付くような凝集ではなく、セルボタンが静かに崩れていく柔らかい凝集崩れが観察されます。従って、上記のような凝集が観察された場合は、D+とD-の血液型キメラを疑って検査を進める必要があります。

特別な試薬や機器がなくても出来る追加検査は、抗D試薬を2倍連続希釈し検体の被凝集価を観察することです。D+/D-キメラの場合には、[SL.1]のように、D+赤血球の混合割合にもよりますが1+程度の凝集がダラダラ続きます(D抗原量が少ないweak D等の場合、被凝集価が2倍のところで1+程度の凝集であれば、8倍程度で陰性となるはずです)。これは、ABOキメラと同様に希釈した特異抗体を用いて被凝集価を測定することで、反応する赤血球の抗原量が低下しているのか、それとも反応する赤血球と反応しない赤血球が混在しているかを鑑別する目安となります。また、ABO判定と同様にスライド法を実施すると、通常のD+が混在していれば細かい凝集が観察されます(典型的なweak Dでは観察されない)[SL.2]。このような反応が観察された場合は、D+/D-キメラの可能性が極めて高いということになります。次に実施すべきことは、抗C、抗E、抗c、抗e試薬があれば、Rhの表現型を確認することです。4つの試薬のいずれかで部分凝集が観察されるようであればキメラの可能性が高いことになります。

 D+/D-キメラということがある程度判明すれば、現在ではフローサイトメトリー(FCM)解析を用いてD+とD-のそれぞれの集団の血液型を解析することが可能性です。その例を[SL.3]に示しました。これは、抗Dと抗C、抗Dと抗Eというように2種類の抗体試薬と被検者赤血球を混合し、まずは抗Dの反応で2つ(D+集団とD-集団)に分けます。次に、それぞれの集団について、もう1種類の抗体の反応性を解析し、D+とD-のC、E、c、e抗原をそれぞれ解析します。実例を[SL.4]で示しましたが、これはr”r”(D-C-c+E+e-)とR1R1(D+C+E+c+e+)のキメラということになります。この検体は、ABO血液型が同型でRh表現型のみが異なったキメラの例です。

 D+/D-キメラの場合は、ABOキメラの様に明瞭な部分凝集が観察されることが少ないため見極めが難しくなります。とくに80~90%がD-型赤血球で、10~20%のD+型赤血球の場合は上述の様にweak D様にも見えてきますので、試験管法を実施し管底のセルボタンの崩れ方や被凝集価が一つのポイントになります。

 

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