RhDの血液型判定において、D+とD-の血液型キメラの際、D陽性の割合が概ね30%以下では、間接抗グロブリン試験を実施するとD陽性が少ないために一見weak Dのような凝集が観察されます。逆にD陰性の割合が少ない(概ね20%程度以下)場合は、抗DとD陽性赤血球の強固な凝集にD陰性の赤血球が取り込まれるため通常のD陽性の時のように4+の凝集が観察されます。試験管底から凝集塊を剥がす際に、抗Dと反応していないD陰性赤血球が僅かに残ることで気がつくこともありますが、通常は4+の凝集の方に目がいくため、気がつかないことの方が多いと思います。D陰性の割合が概ね30~40%以上の場合には、明らかに非凝集部が試験管底に残るため、D+とD-の血液型キメラを疑うことになります。その際、次のステップとして抗Dを用いたスライド法による直接凝集を観察することで、もう少しはっきりする場合もあります。通常、ABO血液型判定においてスライド法を実施する目的は、ABO亜型、キメラ及び抗原減弱などABH抗原が減少していると考えられる検体に遭遇した際に実施します。スライド法では、凝集開始時間の遅延、背景の濁りから部分凝集反応が明瞭となるためです。RhD血液型判定は、通常試験管法やカラム法など間接抗グロブリン試験が可能な方法で判定しますが、D+とD-の血液型キメラが想定された際には解決の一助となる場合もあります。
通常、D+とD-の血液型キメラは、D抗原量が正常なD陽性赤血球とD陰性赤血球が混合した状態です。抗Dを用いたスライド法は、ABO判定の場合とは異なり抗原量が少ないため、抗体試薬(抗D)との反応が弱く直ぐには凝集が観察されません。しかし、ある一定の時間経過すると、上に示した写真の様な凝集塊が観察されます。使用する赤血球浮遊液の濃度もABO判定の時よりもかなり濃い目(40~50%浮遊液)とし、乾燥しないように蓋をして水平ローターなどを用いて20分程度すると、D+は背景が透明の凝集になりますが、D+とD-の血液型キメラの場合には、背景に濁りを生じます。ABO判定の時のように一塊にはなりませんが、D+とは明らかに異なることが分かります。このような反応パターンは、キメラやD抗原減弱例の際に確認されます。
血液型キメラは亜型のように遺伝子検査では解決しません。血清学的検査が唯一の解決方法です。キメラは2つの造血幹細胞が存在している状態です。従って、他の血液型にも不一致を生じている可能性があります。ABO血液型キメラの時と同様にD+とD-にそれぞれ分離し、他の血液型を調べて不一致があればキメラと判定出来ます。そのためには、フローサイトメトリー(FCM)解析が最も信頼できる方法となります。D+とD-を抗Dで分離し、その後、それぞれのRh表現型(C、E、c、e)を調べるというものです。「ア」はD陰性の集団、「イ」はD陽性の集団です。これは二重染色といって、一次抗体を感作する際に、IgG型の抗DとIgM型の抗C(又は抗E、抗c、抗e)試薬を一緒に入れて感作し、二次抗体をFITC標識の抗ヒトIgGとPE標識の抗ヒトIgMを混ぜて感作します。これによってD陽性集団とD陰性集団の表現型を一気に調べることが出来ます。今回の例では、D陽性はR1R2(D+C+E+c+e+)とD陰性はr’r’(D-C+E-c-e+)であることがわかり、D+とD-の血液型キメラと判定できた例です。