血液型検査のサポートBlog

血液型検査(輸血検査)で生じる悩みや疑問(はてな?)をサポートする医療従事者向けのBlogです。

#002:血液型キメラの(はてな?)

 ABO血液型判定のオモテ検査において、時々抗A又は抗B試薬と一塊の凝集が観察されるものの、背景に濁りを生じている場合があります。これは、部分凝集(mixed field agglutination、MFともいう)と呼ばれています。このような反応を呈する例として、A3、B3以下の亜型、血液疾患等による後天的なABH抗原減弱、O型以外の個体へ異型適合血液(O型)の輸血、ABO不一致造血幹細胞移植後、そして血液型キメラが知られています。ここでは血液型キメラについてシェアしたいと思います。

血液型キメラとは・・・同一個体内に異なった遺伝情報を持つ細胞が混在していること、つまり2種類の接合子(zygote)が存在している状態をいいます。ABO血液型以外の血液型にも不一致を生じている場合もありますが[図.1]、殆どの例では日常検査で行っているABO血液型検査で最初に気が付くことが多いと思います。

例えばA型とO型の血液型キメラの例では、抗A試薬に陽性(4+)(抗B試薬は陰性)を示しますが、注意深く観察すると、抗A試薬の背景に濁りを生じています[図.2]。これは抗A試薬と反応しない赤血球が混在していることを示唆するものです。また、試験管法で判定する場合、遠心後の試験管底にあるセルボタンの剥がれ方に特徴があります。凝集部は通常のA型と同様に試験管の底から剥がれ、非凝集部はO型同様に試験管底に赤血球が残っている様子が観察されるのが特徴です。

血液型キメラは一部の例外(二精子性キメラ)を除き、通常二卵性双生児の場合が多いと考えられます(詳細な頻度等については明らかではありません)。二卵性双生児の例では発生初期に子宮内で血管吻合が生じ、赤血球産生細胞が他方に移行し骨髄に着床(住み着く)し、その状態が終生続く(それぞれの造血細胞が赤血球を産生)と考えられています。一方、類似の反応を示す表現型にモザイクというものがあります。これは、遺伝的に異なる2つの接合子が混在するキメラに対し、モザイクは単一の接合子(zygote)でありながら表現型が異なる細胞集団が存在するものです。これは突然変異等によって2つ又はそれ以上の異なる表現型を有する細胞集団が発生すると考えられています。両者にはこのような背景の違いがあります。

部分凝集の程度・・・ABO血液型判定において、スライド法による観察は、凝集開始時間、背景の濁りを確認するのに適した検査法といえます。血液型キメラは通常の表現型同士の混在であるため、凝集開始時間は亜型等に比べて早い特徴もポイントになります。しかし、疾患等による後天的な抗原減弱例、一部の亜型については非常に類似した反応を呈します[図.3]。また、血液型キメラにおいて、その混合率によってA3、B3以下の亜型との判別が難しくなる場合もあります。抗A又は抗B試薬と「一塊の凝集を呈し背景が濁る」といった典型的な血液型キメラは、凝集部の割合が40~50%程度以上あるものとなります[図.4]。それ以下の混合率では、オモテ検査(試験管法及びスライド法)だけでは亜型及び抗原減弱例との鑑別は難しくなり、現実的には赤血球の分離作業(凝集部と非凝集部の分離)を行って互いの血液型を調べたり、唾液及び爪などの体細胞由来試料を用いてABO型を調べるなど、亜型検査に準じた精査が必要になります。勿論、被検者情報(輸血歴、双子の有無、疾患等)を収集することは最終判定の際に必須となります。

血液型キメラの鑑別方法の一つとして行う赤血球の分離(凝集部、非凝集部の分離)方法については、別の記事でシェアしたいと思います。

 

f:id:bloodgroup-tech:20200104075717j:plain

f:id:bloodgroup-tech:20200104075804j:plain