血液型検査のサポートBlog

血液型検査(輸血検査)で生じる悩みや疑問(はてな?)をサポートする医療従事者向けのBlogです。

#126:ケーススタディー(Episode:26)抗Fyaや抗Dibが自己抗体と混在した場合、同種赤血球では全て吸着される

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 今回の例も、被検者のDATが陽性(2+)であり、パネル赤血球とは全て陽性、また自己対照赤血球も4+と増強することから、概ね自己抗体の存在が推測される例です。パネル赤血球との反応に特に強弱がないことから、血液型特異性のない(pan-reactive)自己抗体の可能性が考えられる例ですが、こうした3+~4+の凝集にマスクされた同種抗体が混在している可能性もあります。この被検者は女性で妊娠歴及び輸血歴もあることから、当然同種抗体を保有する可能性があります。しかし、1年前に輸血した際には不規則抗体検査及び交差適合試験が陰性でした。従って、自己抗体のみ保有している可能性もありますが、輸血によって同種抗体が産生されている可能性もあります。こういったケースでは、被検者の血液型タイピングから否定出来る抗体は可能な限り否定することも重要です。Rh表現型はR1R2(D+C+E+c+e+)型であることから、同種抗体としてRh型の抗体(例えば抗Eとか抗c等)を保有する可能性は否定的となります。但し、自己抗体の特異性としては保有する可能性があります。また、同様に抗Jkaや抗Jkb、抗Fybなどを保有する可能性も否定的となります。勿論、抗Lea及び抗Lebの保有も否定的となります。Le(a-b+)の表現型個体が抗Leaを産生しない理由については、関連blogをご覧下さい。

 血液型からのアプローチで保有する可能性のある抗体及び否定できる抗体の推測が出来たら、次に行うことは血液型が既知の赤血球を用いた吸着操作を行い、吸着後上清を用いて抗体同定を行います。被検者が過去3カ月以内に輸血歴がなければ、自己赤血球を用いて吸着することが可能ですが、DATが陽性で一定量の赤血球沈渣が確保出来ない場合は、数種類の表現型の同種赤血球で別々に吸着を行います。その吸着上清で抗C、抗E、抗c、抗e、抗Fyb、抗Jka、抗Jkb、抗Dia、抗Sなどの抗体を検出することが目的となるため、これらの抗体が吸着されない(吸着上清に残すように)ように吸着赤血球を選択します。これは、日本人が保有する可能性が高い抗体(主な血液型に対する重要な抗体)を見逃さないことを優先にして吸着操作を行っているためです。

 しかし、まれに抗Fyaや抗Dibのような高頻度抗原に対する抗体を保有している場合があり、同種赤血球を用いて吸着操作を行うと、抗Fyaや抗Dib(同種抗体)も自己抗体と一緒に吸着除去され、同種抗体なしという判断をしてしまうことがあります。つまり、FyaやDib抗原は高頻度抗原であるため通常の赤血球は抗原が陽性のため吸着されてしまうためです。

 

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 こういった落とし穴を防ぐためには、被検者の血液型タイピングでFybやDia抗原が陽性の場合に、もしかしたら、Fy(a-b+)型やDi(a+b-)型かもしれない=抗Fyaや抗Dibを保有するかもしれないことを少しだけ頭の片隅に置く必要があります。日本人であれば、Fy(a-b-)は超レアな表現型であり、Di(a-b-)型もいません。従って、FybやDia抗原が陰性であれば、Fy(a+b-)型やDi(a-b+)型の可能性が高く、抗Fyaや抗Dib(同種抗体)を保有することはないと考えることが出来ます。

 今回の例では、同種赤血球を用いた吸着上清で陰性になりましたが、念のため自己吸着も行ったところ、吸着されずに残ったこと、追加で実施した酵素処理した同種赤血球においても吸着されないことから、自己抗体に抗Fyaが混在していることが判明した例です。勿論、被検者のFya抗原が陰性であることも確認しました。こういった例は稀にしか遭遇しませんが、同種赤血球を用いた場合は高頻度抗原に対する抗体が混在していても自己抗体と一緒に全て吸着されてしまうということです。抗Jra、抗JMH、抗KnopsのようなHTLAの抗体では、高頻度抗原に対する抗体であっても吸着されずに残りますが、抗Fya、抗Dib、抗Kuなどは自己抗体と同様に吸着がかかりやすい抗体のため、自己抗体と一緒に吸着されて吸着上清には残りません。従って、輸血前の血液で血液型(表現型)を調べるということは、同種抗体を保有する可能性の肯定と否定が推測出来るということを是非知っておいて欲しいと思います。

 

【関連blog】

・#087:Le(a+b-)型血漿による抗Leaの凝集抑制の(はてな?)

https://www.bloodgroup-tech.work/entry/2020/10/02/054125