血液型検査のサポートBlog

血液型検査(輸血検査)で生じる悩みや疑問(はてな?)をサポートする医療従事者向けのBlogです。

#109:ケーススタディー(Episode:09)反応パターンに騙されないために抗体の性質を見極める(抗M+抗Fya)

f:id:bloodgroup-tech:20210106063235p:plain

 パネル赤血球との反応パターン(陽性及び陰性)が合致したにも関わらず、対応抗原が陰性の血液製剤と反応させると陽性となる場合があります。これは、反応パターンに騙された例です。抗体同定の基本は、合致する・しないだけではなく、抗体の性質、つまりホモ・ヘテロ接合抗原との凝集強度、酵素処理赤血球等の反応性も考慮し決定しなければなりません。

 今回の例では、LISS-IATでP1及びP6パネルと陰性であり、確かに抗Jkaのパターンと一致していますが、他の反応強度が3+~4+にも関わらず、P7のJk(a+b-)のホモ接合赤血球と1+というのは不自然です(P4のホモ接合は3+)。また、4+を示すパネルはヘテロ接合であること、PEG-IATでJk(a-)型赤血球と1+の凝集があること、この2点から少なくとも2つ以上の抗体が混在している可能性が示唆されます。とくにPEG-IATで1+程度の凝集を呈する場合に考えることは2つ、①低温反応性の抗体の存在、②IAT反応性の弱い抗体の混在の2つです。PEG-IATだけの反応でみると、全ての赤血球と陽性(1+~4+)になっていることから、複数の抗体や高頻度抗原に対する抗体、自己抗体も示唆されますが、自己対照赤血球が陰性であることから自己抗体の存在は否定的となります。また単一の高頻度抗原に対する抗体であれば、抗原量にかなりバラツキのある抗原に対する抗体(抗Ch/Rg、抗Knopsなど)が考えられます。但し、これらの抗体はHTLAの抗体であり、PEG-IATであっても4+という反応は少し不自然となります(通常は3+程度)。このような反応を示す検体に遭遇した場合に実施することは、まずは低温反応性の抗体の有無を確認すること、酵素(ficin等)処理赤血球との反応を観察することです。また、HTLAの抗体同定の際には60分加温IATも有用な検査法となります(1+の反応が60分加温IATでも同様に反応すればHTLAの可能性が示唆される)。被検者のRh表現型からRh系の抗体を同種抗体として保有することは否定的と考えられるため、それ以外の抗体の混在が示唆されます。

 f:id:bloodgroup-tech:20210103181324p:plain

 Sal法(室温、15分後の判定)において3+~4+を示す抗M、抗P1、抗Leb、抗HIなど抗体は、本質的には低温でしか反応しない抗体の場合であってもPEG-IAT実施した際に持ち越し現象によって1+~2+程度の反応を示す場合があります。従って、これらの抗体の肯定と否定を行う必要があります。今回の例では、Sal法で抗Mのパターンが観察され、抗P1、抗Leb及び抗HI等は否定的と考えられました。PEG-IATで先に実施したP1とP6パネルの反応は抗Mの可能性が高いことが考えられます。その他にIATで反応する抗体の存在が示唆されますが、ficin処理赤血球を用いたIATは全て陰性になることから、最初に同定した抗Jkaの可能性は否定的となります。おそらく抗Fya、抗Fyb、抗Sなどが混在していることが考えられますので、M-型で、それぞれの抗原陽性の赤血球と丹念に反応を観察したところ、IATで反応していた抗体は抗Fyaということが判明しました。P11パネルのFy(a-b+)、M-の赤血球との反応から、抗Jka、抗Lea、抗N、抗S、抗P1、抗Diaは否定されました。

 日本人でFy(a-b+)型は約1/100の頻度でありⅡ群のまれな血液型です。とはいってもRhD陰性よりも陰性頻度は高いため、Fy(a-)のみであれば、それほど入手が難しいことはありません。しかし、今回のように抗Mも考慮し、Fy(a-)、M-型になると、その頻度は一気に下がります。つまり1/500の頻度になります。この頻度になると、交差適合試験でたまたま陰性になることはありません。待機手術で日程的に余裕があれば、血液の入手は難しくはありませんが、緊急的に輸血が必要な場合には保有する抗Mが37℃からのIATで反応するかを確認し、IAT陰性であればFy(a-)型のみ考慮した血液を使用するのが最善策と考えます。

 高頻度抗原に対する抗体を保有することは日常的にはそうありませんが、保有者が出た場合に緊急的な輸血対応が難しくなる場合もあります。従って、妊娠歴及び輸血歴のある患者さんで、この先輸血が必要になりそうな場合(緊急搬送以外)は可能な限り事前に抗体検査を実施することは、輸血が必要な際にタイムリーな対応が可能となり患者さんを救うことに繋がります。

 

【関連blog】

・#012:PEG-IATが弱陽性の場合の(はてな?)↓↓↓

https://www.bloodgroup-tech.work/entry/2020/01/25/070412

 

・#043:抗Ch、抗Rgの同定方法の(はてな?)

https://www.bloodgroup-tech.work/entry/2020/04/18/191359