市販品のパネル赤血球の組成は、半分以上はD陰性であり、Rh表現型がrr、r”r、r’rなどの赤血球ではe抗原が陽性です。D陽性のパネル赤血球においてもR1R1(D+C+E-c-e+)とRor(D+C-E-c+e+)はe抗原が陽性であり、e抗原が陰性のR2R2(D+C-E+c+e-)は1~2本しか含まれていません。そのため、抗eを保有した検体では、パネル赤血球と殆ど陽性となります。加えて抗Jkaや抗Jkbが混在した場合は、自己対照赤血球以外は殆ど陽性になります。交差適合試験を実施しても、日本人の抗原頻度ではe-型が約10%、Jk(a-)型が約27%、Jk(b-)型が約23%と低いため、抗e+抗Jkaを保有した際にランダム血液から陰性を検出するには計算上、約37本に1本となります。抗e+抗Jkbを保有した際には約43本に1本となります。従って、現実的には抗体を確実に同定し、抗原陰性血を用いて交差適合試験を実施するという流れになります。ここで重要なのは、抗体の数が多い=全て陽性になるとは限らないと言うことです。例えば、抗Dia+抗S+抗Fybという3つの抗体を保有しても、適合率は約64%であり2本に1本は陰性となります。従って交差適合試験で5~10本実施しても全て陽性という場合は、日本人で抗原陽性頻度が高い(又は抗原陰性頻度が低い)抗原に対する抗体である、という考え方が必要です。
今回の例でも殆ど陽性ですが1本~2本陰性がある場合は、消去法によって消去出来る抗体を消去し、血液型タイピングで抗原が陽性であれば同種抗体を保有しないという考えで絞り込みを行う事が重要です。消去法後に否定出来なかった抗体は、抗e、抗Fyb、抗Jka、抗M、抗S、抗P1、抗Xga、抗Diaとなります。Sal(室温)では陰性であることから抗Mや抗P1の可能性は低いと考えられます。また、LISS-IAT及びPEG-IATの反応は抗Xgaに完全合致しますが、ficin処理赤血球とのIATでも同じ反応パターンであることから抗Xgaの可能性は低いと考えられます。ここで重要なのはBro法で2+程度に反応しているから、Rh系の抗体を保有する可能性があること、タイピング結果から抗eは保有する可能性があると考えることが出来れば、その後は粛々と絞り込みを行うのみです。
このように全て陽性になるパターンで、Rh系の混在が考えられる場合は、まずは対応する抗原が陰性のパネル赤血球で可能な限り他の混在抗体の肯定と否定を行う事です。今回の例では、抗eの保有が考えられますので、まずはe-型のパネル赤血球を集めて(前回ロットのパネル赤血球なども使用)、他の抗体を否定します。その結果、抗Jka以外は否定されました。次に絞り込んだ抗体で見落としがないことを確認するため、保有する可能性のある複数の抗体に対して、一つだけ抗原が陽性の赤血球との反応を観察します。つまり、抗eと抗Jkaの可能性が示唆された場合は、e-、Jk(a+)の赤血球とe+、Jk(a-)の赤血球との反応を複数例観察することです。この作業によって混在する可能性の抗体を否定することができます。
抗eはRh系の抗体であり、Bro法及び間接抗グロブリン試験(IAT)で陽性となります。ficin処理赤血球を用いたIATでは未処理赤血球よりも反応性が増強します。一方、抗Jkaは、通常IATでのみ反応する抗体で抗体は速やかに消失する性質があります。また、産生初期の場合や一部の抗体ではIgM性の抗体があり、ブロメリン法やficin二段法でも直接凝集が確認される場合もあります。多くは、LISS-IATやPEG-IATで検出され、60分加温-IATのような少し感度が低い方法では検出されないか又はJk(a+b-)型のホモ接合赤血球とのみ1+程度の反応になります。60分加温-IATで4+を示す抗Jkaや抗Jkb(抗体価は16倍以上)はこれまで数例しか経験したことがありません。殆どはPEG-IATやficin-IATで2+~3+の反応を示す抗体が多いと思います。抗Eや抗Diaなどのように強い反応がないためKidd系の抗体同定は難しい抗体の一つと言えます。とくに日本人のJka抗原の多くはホモ接合においても抗原量が低下しているのも反応が弱くなる要因です。数ヶ月後の検査では検出限界以下になるケースもあります。これが抗Jkaや抗Jkbの特徴でもあります。
【参考blog】
・#015:不規則抗体同定の必要性の(はてな?)↓↓↓
https://www.bloodgroup-tech.work/entry/2020/02/01/190355
・#082:Kidd血液型のJka抗原量低下の(はてな?)↓↓↓
https://www.bloodgroup-tech.work/entry/2020/09/11/053500