抗D試薬を用いた間接抗グロブリン試験でD陰性と判定される殆どは、RHD遺伝子の欠損による真のD陰性ですが、東アジア系民族では、抗D試薬と陰性と判定された一部に、D抗原が微量に存在するDEL型という表現型があります。また、国内外でD陰性者へD陰性の赤血球製剤を輸血後に、抗Dを産生した例が散見されています。そこで、文献をもとにD陰性血液製剤輸血後に抗Dを産生した22症例について調べてみました。輸血したD陰性血液はDELだったと考えられますが、日本、中国、台湾、韓国などで輸血された製剤はRHD遺伝子の1227番塩基の一塩基置換タイプ、いわゆるアジアタイプ(RHD*DEL1)のDELと推察されました。このタイプではC抗原が陽性となります。一方、オーストリアの1例(RHD IVS5-38del4)やカナダの4例(RHD*(93-94insT);RHD*DEL18)の例ではアジアタイプとは異なる遺伝子のDELでした。また、22症例中、15例が二次免疫応答による抗D産生と考えられましたが、6例は一次免疫応答で産生された可能性も示唆されています。溶血所見については、抗Dが512倍と高力価だった1例に認められていますが、このような例はレアな症例と考えられます。他の21例については、溶血所見は認められていません。つまり、仮にDELの輸血によって抗Dは産生しても溶血に至るまで強い抗Dではない(又は高力価の抗Dではない)ということも言えます。東アジア系民族ではDEL型の頻度が高く、D陰性者にD陰性の血液を輸血してもDEL型の赤血球が輸血される場合があるため、抗Dを産生する可能性があります。従って、とくに妊娠する可能性のあるRhD陰性の女性が、今後輸血を行う際には、C抗原が陰性の血液を選択することで少なくともアジアタイプのDEL型は除外されるため、抗D産生の回避に繋がると考えられます。ちなみにRhD陰性の中でC抗原陰性は約8割ありますので選択に苦慮することはありません(D陽性の場合は1割しかありませんが)。
表1(一次免疫及び二次免疫応答による抗D産生例)
国 |
例数 |
性別 |
抗D産生 |
|
日本 |
9 |
男2、女7 |
1st:1、2nd:8 |
|
中国 |
4 |
男2、女2 |
1st:1、2nd:2 |
不明1 |
台湾 |
2 |
男2、女0 |
1st:1、2nd:1 |
|
韓国 |
2 |
男2、女0 |
1st:2、2nd:0 |
|
オーストリア |
1 |
男0、女1 |
1st:1、2nd:0 |
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カナダ |
4 |
男0、女4 |
1st:0、2nd:4 |
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合計 |
22 |
男8、女14 |
1st:6、2nd:15 |
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【Keyword】#DEL #抗D産生
【参考Blog】
#095:モノクロ抗D(IgG+IgM)を用いた吸着解離試験の注意点の(はてな?)