血液型検査のサポートBlog

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#163:輸血検査のマメ知識(DEL製剤輸血後の抗D産生例について)

 

 抗D試薬を用いた間接抗グロブリン試験でD陰性と判定される殆どは、RHD遺伝子の欠損による真のD陰性ですが、東アジア系民族では、抗D試薬と陰性と判定された一部に、D抗原が微量に存在するDEL型という表現型があります。また、国内外でD陰性者へD陰性の赤血球製剤を輸血後に、抗Dを産生した例が散見されています。そこで、文献をもとにD陰性血液製剤輸血後に抗Dを産生した22症例について調べてみました。輸血したD陰性血液はDELだったと考えられますが、日本、中国、台湾、韓国などで輸血された製剤はRHD遺伝子の1227番塩基の一塩基置換タイプ、いわゆるアジアタイプ(RHD*DEL1)のDELと推察されました。このタイプではC抗原が陽性となります。一方、オーストリアの1例(RHD IVS5-38del4)やカナダの4例(RHD*(93-94insT)RHD*DEL18)の例ではアジアタイプとは異なる遺伝子のDELでした。また、22症例中、15例が二次免疫応答による抗D産生と考えられましたが、6例は一次免疫応答で産生された可能性も示唆されています。溶血所見については、抗Dが512倍と高力価だった1例に認められていますが、このような例はレアな症例と考えられます。他の21例については、溶血所見は認められていません。つまり、仮にDELの輸血によって抗Dは産生しても溶血に至るまで強い抗Dではない(又は高力価の抗Dではない)ということも言えます。東アジア系民族ではDEL型の頻度が高く、D陰性者にD陰性の血液を輸血してもDEL型の赤血球が輸血される場合があるため、抗Dを産生する可能性があります。従って、とくに妊娠する可能性のあるRhD陰性の女性が、今後輸血を行う際には、C抗原が陰性の血液を選択することで少なくともアジアタイプのDEL型は除外されるため、抗D産生の回避に繋がると考えられます。ちなみにRhD陰性の中でC抗原陰性は約8割ありますので選択に苦慮することはありません(D陽性の場合は1割しかありませんが)。

 

表1(一次免疫及び二次免疫応答による抗D産生例)

例数

性別

抗D産生

 

日本

男2、女7

1st:1、2nd:8

 

中国

男2、女2

1st:1、2nd:2

不明1

台湾

男2、女0

1st:1、2nd:1

 

韓国

男2、女0

1st:2、2nd:0

 

オーストリア

男0、女1

1st:1、2nd:0

 

カナダ

男0、女4

1st:0、2nd:4

 

合計

22

男8、女14

1st:6、2nd:15

 

 

【Keyword】#DEL #抗D産生

 

【参考Blog】

#095:モノクロ抗D(IgG+IgM)を用いた吸着解離試験の注意点の(はてな?)

https://www.bloodgroup-tech.work/entry/2020/11/10/060145