血液型検査のサポートBlog

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#095:モノクロ抗D(IgG+IgM)を用いた吸着解離試験の注意点の(はてな?)

 RhD血液型は、抗D試薬との反応性からD陽性、D陰性に大別されます。直後判定において陰性の場合は、引き続き間接抗グロブリン試験(IAT)によるD陰性確認試験を行い、最終判定を行います。通常、臨床の現場において抗Dによる吸着解離試験を行うケースは少なく、Del(DEL)型の鑑別、D+の割合が少ないD+/D-キメラの鑑別、IATで1+程度のweak Dに遭遇した際の鑑別等に限定されます。現在市販されている多くの抗D試薬は、従来市販されていたIgG抗D(ポリクロ抗D)とは異なり、IgM抗DとIgG抗D(人由来)がブレンドされた試薬が多くなっています。ここでは、モノクロ抗D(IgG+IgM)を用いた吸着解離試験の注意点の(はてな?)についてシェアしたいと思います。

 従来、抗D試薬は抗D(抗体)を保有した人の血清(主にIgG抗D)から製造調製されたポリクロ(ヒト由来)抗Dとして市販されていました。しかし、現在では感染性の問題や抗体保有者確保等の問題から抗A及び抗B試薬と同様にモノクローナル抗体試薬(以下、モノクロ抗D)に移行しつつあります。現在市販されている代表的な3社のモノクロ抗DはIgM抗D+IgG抗Dのブレンド品となっています。これは、直後判定でD陽性を判定出来るようにIgM抗Dが含まれており、さらにIgG抗Dを混合させることで、直後判定で陰性の場合にD陰性確認試験(間接抗グロブリン試験)も実施可能な試薬になっています。従って、RhD血液型を通常の方法で調べるには問題がなく、以前よりも判定しやすくなっています。判定しやすいという意味は、RhD抗原量が通常よりも僅かに少ないが、weak Dと判定するほど抗原量が低下していないような範疇の検体は、IgM抗Dにより直後判定でD陽性と判定されるようになっているという意味です。

 一方、RhD精査において、抗Dを用いた吸着解離試験を実施する場合があります。例えば、Del(DEL)型の確認検査やD陰性確認試験で非常に弱い反応を呈する例では、反応している微弱な凝集が抗DとD抗原によるものかを確認する必要があります。特異性が既知の抗Dで感作し、次に感作した赤血球の抗体解離試験を行って解離液に抗Dが確認されれば、赤血球上に微量のD抗原が存在するという証明になります。吸着解離試験を用いて抗原の存在を調べる際には、IgG性の抗体(ポリクロ抗体)を用いることがこれまでの考え方の基本です(IgG性抗体の方が、特異性が高く非特異反応が出にくい)。

 そもそも、Del(DEL)型とは、通常の検査ではD陰性と判定されますが、抗D試薬で吸着解離した際に解離液中に抗Dの特異性が確認される表現型(赤血球上に微量のD抗原が存在)です。詳細は「#021:Del(DEL)型の(はてな?)」をご覧下さい。また、weak Dには遺伝子タイプの違いで多くのweak Dが存在しますが、日本人から検出される典型的なタイプは、type15やtype24があり、これらは抗Dと間接抗グロブリン試験でも1+~2+の弱い凝集です。少し強めに試験管を振ると陰性に判定される場合もあります。type15は、weak partial Dとも呼ばれています。weak Dの詳細については、「#023:weak Dの(はてな?)」をご覧下さい。

 このような表現型の確認検査には、抗Dによる吸着解離試験が欠かせませんが、従来のポリクロ抗D(IgG)と同様に現在市販されているモノクロ抗D(IgM抗D+IgG抗D)が同じように使用可能かはあまり検討されていません。そこで、ブレンド抗Dによる吸着解離試験について検討を行いました。

結論からいうと、抗D試薬を上手に希釈調製すれば、従来のポリクロ抗Dで実施していた吸着解離試験と同様の結果が得られることを確認しました[SL.1、SL.2]。上手に希釈調製という意味は、吸着する抗D試薬に含まれるIgM抗Dによる非特異反応を低減するように適度に希釈するという意味です。IgM抗Dの抗体価が高い場合(Sal法で32倍以上)、D陰性赤血球(Del以外)の吸着解離試験においても一部の検体の解離液から抗Dの特異性が確認されます。これはIgM抗Dで時々みられる非特異反応です(D陰性赤血球に非特異的に吸着される)。ポリクロ抗D(IgG抗D)ではD陰性の吸着解離試験を1,000検体以上実施しましたが、非特異反応は確認されませんでした。従って、現在市販されているブレンド抗Dを用いて吸着解離試験を実施する際には、20倍程度に希釈し、Sal法でD陽性との抗体価を32倍以下にすれば、ブレンド試薬でもポリクロ抗Dと同等の結果が得られると考えられます。この希釈された抗D試薬のIgG抗D成分は、IATで32倍程度です。

 吸着解離の条件は、赤血球沈渣1容+希釈調製した抗D試薬を1容加えて、37℃で60分間感作し、PBSで数回洗浄後に抗体解離試験(DT解離又は酸解離)を行います。但し、必ず既知のD陰性(C抗原が陰性の検体)を陰性対照として同様に検査を実施すべきと考えます。陽性対照は、D陰性赤血球沈渣1,000μLにD陽性赤血球沈渣を10μL程度混ぜた検体が適当と考えます。

 

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