血液型検査のサポートBlog

血液型検査(輸血検査)で生じる悩みや疑問(はてな?)をサポートする医療従事者向けのBlogです。

#168:輸血検査のマメ知識(交差適合試験に先立ち、抗体スクリーニングを行うメリット)

 不規則抗体スクリーニングは,患者血漿(血清)と供血者赤血球間で行われる交差適合試験(主試験)と比べ、検出感度及び信頼性の点で優れているとされ、可能な限り不規則抗体スクリーニングは交差適合試験に先立って実施すべきであるとされています。そもそも交差適合試験は、輸血前に輸血する赤血球製剤と患者血漿(血清)の反応を試験管内で確認する試験であるため、交差適合試験が陰性であれば問題ないのでは?と考える人も多いかと思います。では、なぜ、交差適合試験ではなく抗体スクリーニングを実施した方が望ましいのかを説明します。

 被検者(患者さん)が仮に過去の輸血又は妊娠がきっかけで同種抗体を保有していた場合、抗原陽性頻度が低い抗原に対する抗体であれば、交差適合試験においても陰性となり適合血液が得られますが、抗原頻度が高い抗原に対する抗体や複数の抗体、高頻度抗原に対する抗体があった際には、交差適合試験で適合血を得ることは現実的に不可能となります。そのため、輸血の実施が遅延します。これが一つ目の問題点です。また、過去に産生された抗体は時間の経過とともに抗体価が低下し、抗原量の多い赤血球(ホモ接合型)にしか反応しないケースもあります。これが二つ目の問題点です。この場合、低力価の抗体を見逃し、保有している抗体に対して抗原陽性血液を輸血してしまった場合、その後二次免疫応答によって抗体価が急上昇し、輸血した血液(抗原陽性血液)を破壊し、溶血所見を呈する場合もあります(遅発性溶血性輸血反応:DHTR)。この大きく二つの問題を可能な限り低減するためには、抗体スクリーニングを実施することが望ましいということです。通常抗体スクリーニング赤血球に含まれる抗原タイプはホモ接合になっているため、低力価の抗体検出に優れています。また、市販品のスクリーニング赤血球試薬は、C、c、E、e、Dia、Dib、Fya、Fyb、Jka、Jkb、S、s、M、N、P1、Lea、Lebなどの抗原を含み、日本人から多く検出される多型性抗原に対する抗体の検出が可能であること、C、c、E、e、Fya、Fyb、Jka、Jkb、S、sはホモ接合の組み合わせで構成された試薬であることがメリットです。C、c、E、e、Fya、Fyb、Jka、Jkb、S、sなどの抗原に対する抗体は、ホモ接合とヘテロ接合で抗原量が他の血液型抗原よりも顕著に異なるため、ホモ接合赤血球を用いて検査した方が検出感度は高くなるということです(量的効果)。因みに仮に被検者が抗Jkaを保有した場合、ランダム血液との交差適合試験でJk(a+b-)型の血液にあたる確率は、2〜3割です。日本人ではJk(a+b+)のヘテロ接合の頻度が高いため、低力価の抗Jkaを見逃さないためには抗体スクリーニングを実施する意義が理解出来るかと思います。交差適合試験はABOの適合性確認には重要な検査ですが、ABO以外の主な血液型抗原に対する抗体検出には抗体スクリーニングを交差適合試験に先立って実施することが望まれます。

 

【Keyword】#抗体スクリーニング #交差適合試験 #量的効果

 

【参考Blog】

#152:輸血検査のQ&A(不規則抗体検査を実施していれば、交差適合試験は省略可能か?)

https://www.bloodgroup-tech.work/entry/2022/04/20/164115