血液型検査のサポートBlog

血液型検査(輸血検査)で生じる悩みや疑問(はてな?)をサポートする医療従事者向けのBlogです。

#167:輸血検査のマメ知識(高力価の抗Iが結合した自己赤血球の血液型タイピング )

 

 寒冷凝集素病などで検出される高力価の抗I(冷式自己抗体)が血清中に存在する場合、自己赤血球のI抗原は陽性のため、自己赤血球にIgM性の抗Iが感作(結合)し、EDTA採血した血液は凝固血のような状態になります。そのような検体から赤血球浮遊液を調製し、ABO血液型判定を実施した場合、オモテ検査で(本来陰性になるところが)1+程度の非特異的な凝集を呈する場合があります(Rh判定ではRhコントロールが陽性)。直接抗グロブリン試験(以下、DAT)を行うと、DAT弱陽性(主に抗補体成分が含まれる試薬)になり、PBS対照も弱陽性を呈する場合があります。これは、赤血球表面にIgM性の抗体(抗I)が感作したために、赤血球表面のζ電位が低下し、隣り合う赤血球同士の反発が低下し、自発凝集が起こっているためです。このような場合、通常37℃に温めた生理食塩液で洗浄することが(教科書的には)推奨されていますが、高力価抗体が感作した場合には、37℃程度に加温した生食やPBSで洗浄しても、なかなか抗体が赤血球から外れません。こういったケースでは、洗浄する生食やPBSの温度を上げることで感作している抗体を外すことができます(熱解離の原理を応用)。これはあくまで解離液を得ることが目的ではなく、抗体を解離した赤血球を得るため(タイピングや自己吸着に用いる)に行うテクニックです。

具体的には、小試験管に赤血球沈渣(EDTA採血された検体)を100μL程度入れ、そこに52℃〜56℃程度に温めた生食又はPBS(温生食と記載)を2mL程度加えて、ボルテックスで15秒程度混和します。さらに温生食を3mL程度加えて1分程度静置し、その後、3,000回転程度で2分間遠心します。上清を除去し、再度、温生食を2mL程度加えて、ボルテックスを15秒、追加で温生食を3mL加えて静置後に遠心、これを3、4回繰り返します。最後は通常の生食又はPBSを1〜2mL程度加えて濃度調整します。50℃以上の温生食で処理することから赤血球は多少溶血しますが、その分を差し引いても最終的に50μL程度の赤血球沈渣は残りますので、赤血球浮遊液を1〜2mL程度作製が可能です。抗体が外れた確認をするために、生食1滴と温生食処理した赤血球浮遊液を1滴加えて遠心判定し、陰性であれば血液型タイピングに使えるということです。この方法はIgM性抗体(糖鎖抗原に対する抗体:抗I、抗HIなど)と分かっていて、自発凝集のため、そのままの赤血球浮遊液では正しくタイピングできない場合には、やってみる価値があります。時々、自己抗体の中にはBand3に対する低温反応性の自己抗体もあります。そのような場合(蛋白抗原に対する抗体)は、EA処理の方が優れている時もあります。

 

【Keyword】#寒冷凝集素 #DAT陽性 #IgMの抗体解離

 

【参考Blog】

#034:DAT陽性赤血球のEA(酸)処理の(はてな?)

https://www.bloodgroup-tech.work/entry/2020/03/23/055120