血液型検査のサポートBlog

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#100:Mimicking抗体(抗E)の鑑別の(はてな?)

 Mimicking抗体は自己抗体の一種です。Mimickingとは「まねている、擬態」という意味があります。通常、不規則抗体用パネル赤血球との反応において特異性が確認された場合、対応抗原陽性の赤血球で吸着されますが、抗原陰性の赤血球では吸着されません。これが通常の同種抗体の性質です。一方、Mimicking抗体は、対応抗原が陽性及び陰性の両方の赤血球で吸着されてしまう抗体です。ここでは、Mimicking抗体(抗E)の鑑別の(はてな?)についてシェアしたいと思います。

 抗赤血球自己抗体(以下、自己抗体)の多くは直接抗グロブリン試験(以下、DAT)が陽性であり、血清中にも自己抗体が存在します。そして、血清中の自己抗体の多くは、pan-reactive(血液型特異性なし)の性質を示しますが、血液型が既知の数種類の赤血球で吸着操作を行うと、混在していた血液型特異性(殆どがRh系の特異性)を示す自己抗体が検出される場合があります。これはrealな特異性を示す自己抗体と呼ばれます。つまり、抗D特異性がある自己抗体の場合、D+型赤血球では吸着されるため、吸着上清とパネル赤血球との反応は陰性になりますが、D-型赤血球で吸着した吸着上清からは抗Dの特異性が確認される自己抗体です。一方、Mimicking抗Dと呼ばれるものの多くは血清中にpan-reactive(血液型特異性なし)な自己抗体は殆ど検出されず、まるで同種抗体の抗Dのように、その特異性のみが観察されます。しかし、その反応は未処理赤血球では弱く、多くの例では酵素法やPEG-IATといった感度が高い方法でのみ確認されます。反応強度も1+~2+と弱い反応を示す抗体が多いのも特徴です。そして、弱い抗体であるため、例え自己の抗原が陽性であってもDATは陰性~弱陽性の場合が多く、自己抗体と判断が難しくなります。一番厄介なのは、被検者の血液型(表現型)とは無関係に検出されることです。例えば、E-型の患者さんから抗Eが検出されれば通常は同種抗体と考えます。一方、E+型の患者さんから抗Eが検出されれば抗E自己抗体(特異性がある自己抗体)と考えるのが普通です。しかし、Mimicking抗体の場合はE-型の個体からも検出されるため、同種抗体との鑑別が必要になるということです。自己抗体の特異性に関する詳細は、「#031:自己抗体の血液型特異性の(はてな?)」をご覧下さい。

被検者の血液型抗原が陰性で、血清中に対応する抗体が存在した場合、例えばE-型個体の血清中から抗Eが検出された場合に確認することは、①同種抗体を産生する可能性があるか(妊娠又は輸血歴の有無)、②抗体の反応性(酵素法のみで検出されるのか、それとも間接抗グロブリン試験でも検出されるか)、③被検者赤血球の抗体解離試験を行い、自己抗体が検出されるかなどを確認する必要があります。これらの基礎的な情報を整理したあとに、対応抗原が陰性と陽性の赤血球沈渣を用いて吸着操作を行い鑑別します。注意点としては、抗体の反応が2+以下の場合は、PEG吸着などを行うと例え同種抗体であっても非特異的に吸着されてしまい、Mimicking抗体と誤判定をすることもあります。従って、必要に応じて酵素処理した赤血球沈渣を用いて何も加えずに37℃60分程度感作し、その上清とパネル赤血球の反応性から判断します。抗体が1+程度の弱い反応の場合は、特異性を確認する際にficin処理赤血球で感度を上げてみることも可能です。同種抗体とMimicking抗体(Mimicking抗E)の例を[SL.1、SL.2]に示しました。

仮に、抗Eの抗体が検出された場合、被検者の血液型がE+型であれば自己抗体と考え、輸血はランダムで問題になることはありません。しかし、E-型の場合で同種抗体かMimicking抗体か鑑別が出来ない場合に輸血が必要であれば、迷わずE-型の赤血球を選択すれば良いことです。同種抗体かMimicking抗体かの鑑別は必須ではないことを理解してください。この記事でシェアしたいことは、抗体には様々な反応を示す抗体(一見、同種抗体に見えても実は自己抗体の一種だった)が存在するということ、それをどうしてもはっきりさせたいという場合には鑑別方法があるということです。但し、酵素法で1+程度しか出ない抗体を深掘りする必要性はありません。一部の例外(産生初期の抗体)のを除けば酵素法のみで反応する抗体は臨床的意義がありませんので。免疫されて産生した抗体であれば、その後、IgG抗体へ変わり間接抗グロブリン試験でも検出されるようになります。数ヶ月経過しても酵素法でしか出ない抗体は、Mimicking抗体や自然抗体を疑う方が良いかもしれません。

 

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