血液型検査のサポートBlog

血液型検査(輸血検査)で生じる悩みや疑問(はてな?)をサポートする医療従事者向けのBlogです。

#099:レクチンによるpolyagglutinationの鑑別の(はてな?)

 Polyagglutinationとは、細菌などの酵素によって赤血球表面のシアル酸が切断され、潜在性のT抗原が露出し、成人のあらゆる血漿(血清)と凝集反応を起こすことです。成人の血漿(血清)中には、これらのT抗原と反応する抗T抗体が抗Aや抗Bなどの規則抗体と同様に存在しています。そのためpolyagglutinationを呈した赤血球は、あらゆるヒト(ABO型が同型でも)の血漿(血清)と凝集を呈します。polyagglutinationの代表的なタイプとしては、T、Tn、Tk、Acq.Bなどがあります。ここでは、レクチンによるpolyagglutinationの鑑別の(はてな?)についてシェアします。

 ヒト血漿(血清)は、全てのpolyagglutinationタイプに反応するため、タイプを分類するには数種類のレクチンを用いて検査する必要があります。タイプを分類するために用いる代表的なレクチンは、Arachis hypogaea(通称:ピーナッツレクチン)、②Glycine soja(通称:大豆レクチン)、③Bandeirea simplicifolia(通称:バンデラレクチン)、④Salvia sclarea(通称:サルビアレクチン)などを使用してタイプを決定します。Acq.Bの鑑別については、「#026:PolyagglutinationとAcquired B(後天性B)の(はてな?)」をご覧下さい。

 Arachis hypogaea(通称:ピーナッツレクチン)は、PA-T、PA-Tkを呈した赤血球と反応します。最も一般的に用いられるレクチンですが、PA-Tnとは反応しません。一方、Glycine soja(通称:大豆レクチン)は、PA-Tの他に、PA-Tnとも反応するため、この二つのレクチンは、polyagglutinationを確認する際には一緒に使用されます。また、PA-Tnと特異的に反応するレクチンとしてSalvia sclarea(通称:サルビアレクチン)も用いられます。Bandeirea simplicifolia(通称:バンデラレクチン)はPA-Tkと特異的に反応することから、サルビア同様に、ピーナッツ及び大豆レクチンの反応が陽性の場合に用いられて、BS-IIと陽性であればPA-Tkと決定します[SL.1、SL.2]。polyagglutinationタイプを決定することに大きな意味はありません。不規則抗体のようにタイプに応じて輸血用血液製剤を選ぶこともありません。レクチンを用いてタイプを分類するのは、あくまでどのようなタイプのpolyagglutinationであるかを確認するだけです。但し、様々なレクチンの組み合わせによってpolyagglutinationであること及びそのタイプまで決定することによって精度の高い検査結果を報告できること、担当者の知識習得と経験にも繋がります。勿論、不規則抗体陰性のAB型又は被検者とABO同型の血漿(血清)との反応が全て陽性になることがpolyagglutinationであることの前提条件であることをお忘れ無く。

 現在では、患者管理が厳密になったことや予防的な薬剤投与によって腹膜炎などで敗血症を呈し、polyagglutinationを呈する事例が少なくなりました。そのため、輸血検査担当技師においてもpolyagglutinationに遭遇する機会が減っています。成人だけではなく、むしろ小児の肺炎の際に時々遭遇することもあります。polyagglutinationを呈した患者赤血球はABO同型の血漿(血清)とも反応することから、血漿成分(PC、FFP)の輸血を躊躇する場合もありますが、輸血で問題となるほどT化している赤血球では、ABO同型のヒト血漿(血清)を2倍連続希釈した試験管に患者赤血球を1滴ずつ加えて10~15分後に遠心判定した際、128倍以上の凝集が観察された際には、少し注意が必要です。但し、そのくらいT化した赤血球は稀にしか遭遇しません。

 

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