血液型検査のサポートBlog

血液型検査(輸血検査)で生じる悩みや疑問(はてな?)をサポートする医療従事者向けのBlogです。

#098:血液型精査におけるレクチンの活用の(はてな?)

 レクチンとは、糖鎖と結合する能力を有する抗体以外のタンパク質で細胞や複合糖質を凝集し、単糖又はオリゴ糖によって特異的に阻止される特徴もあります。一般的にレクチンは、植物・動物・微生物等に存在するタンパク質、糖タンパク質のうち、糖に対する特異的結合活性を持った物質の総称です。輸血分野においては主に種子等から抽出したレクチンが血液型精査に用いられます。ここでは、血液型精査におけるレクチンの活用の(はてな?)についてシェアしたいと思います。

 血液型精査において使用される主なレクチンを[SL.1]に示しました(他にも沢山ありますが、使用頻度が高いレクチンのみを抜粋しています)。被検者赤血球とレクチンとの反応を観察するケースと言えば、①亜型の鑑別、②polyagglutinationの鑑別に限定されます。但し、②はレアケースであり精査を実施する施設も限られるため、多くは亜型精査の際に使用されます。

 亜型精査で使用される代表的なレクチンといえば、ヒマラヤフジマメ由来のDolichos biflorusであり、通称ドリコスレクチン又は抗A1レクチンと呼ばれています。このレクチンはA1型又はA1B型赤血球とは強く凝集が観察されますが、A2(A2B)以下の表現型とは反応しません。そのため、A2(A2B)以下の表現型を鑑別する際に用いられるレクチンです。また、ドリコスレクチンと一緒に用いられるのが、ハリエニシダ由来のUlex eupopaeusであり、通称Ulexレクチン又は抗Hレクチンと呼ばれています。このレクチンはH抗原と反応するため、H抗原の有無を確認する際に用いられます。反応性はO>A2>B>A1>A1Bの順であり、H抗原が多いO型やA2型とは4+を示しますが、H抗原が少ないA1B型ではw+~1+(レクチンの凝集価が低い場合は陰性になる場合もある)の反応を示します。ツルレイシレクチンもUlexレクチン同様に使用されます。ツルレイシレクチンはニガウリ(ゴーヤ)から抽出された抗H特異性を示すレクチンです。同じ抗Hレクチンですが、唾液の抑制試験などではUlexレクチンが一般的に用いられます。この理由は、ABH物質の構造がⅠ型糖鎖、Ⅱ型糖鎖の違いで、反応性に若干違いがあるためです。どちらかと言えば一般的に用いられるのはUlexレクチンの方です。

 赤血球上のABH糖鎖構造は、赤血球膜⇒H抗原(Fuc)⇒A抗原(GalNAc)H抗原⇒A1抗原の連続構造(⇒の順に糖が付加されていく)になっているため、A1抗原を欠いているA2以下(A2、A3、Axなど)の表現型赤血球では、H抗原が露出(むき出した)した状態になっています。従って、A2以下の赤血球は、ドリコスレクチンが陰性となり、Ulexレクチンは3+~4+になるということになります。これがA2以下の表現型の場合、Ulexレクチンの反応性が増強するメカニズムです。末端部のA1抗原を欠いているため、不規則性の抗A1(抗Aではなく、抗A1)を保有する場合があるということになります。従って、ドリコスレクチンとUlexレクチンは一緒に検査しないと意味がない(赤血球上の抗原構造の状態を解釈できない)ということです。

 例えば、血液疾患等(AML、MDSなど)では後天的な抗原減弱を来すことがあります。この際、被検者がA型だったと仮定すると、オモテ検査の抗A試薬に部分凝集が認められ、亜型又は抗原減弱等を考慮して精査を進めることになります。その際、2つのレクチンの反応は、様々なパターンになる場合があります。ドリコスレクチンが3+mfになるものから陰性になるものまで様々です。Ulexレクチンは、当然のことながらA抗原が減弱することでH抗原残基が残っているので、理論的に考えれば3+~4+になるはずですが、時々w+~1+程度の場合があります。これは、骨髄の中で土台となるH抗原の生合成が低下していることを意味します。亜型(Bomaby、para-Bombay以外)の場合は、H抗原は通常通り生合成されますが、A1抗原が付加されないためH抗原が残り、抗Hとの反応が増強することになります。

 ドリコスレクチンは、Nアセチルガラクトサミンで中和される性質があるため、A/O血液型キメラの分離にも活用されます。詳細は、「#003:ドリコスレクチンを用いたA/Oキメラの分離の(はてな?)」をご覧下さい。

 また、細菌等の感染によって敗血症などを発症した際に、赤血球のGPA(グリコフォリンA)上のシアル酸が切断されて、内在性の抗原(T抗原)が露出した状態をpolyagglutination(汎凝集反応)(以下、PA)といい、ヒト血漿(血清)と血液型とは無関係に凝集する現象を呈します。この際にもPAのタイプを鑑別するためにレクチンが使用されますが、これについては次回の記事でシェアしたいと思います。

 

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