血液型検査のサポートBlog

血液型検査(輸血検査)で生じる悩みや疑問(はてな?)をサポートする医療従事者向けのBlogです。

#093:ABO亜型個体の唾液中のA,B型物質量の(はてな?)

 ヒト唾液中には、赤血球のABO血液型と同じ型物質が存在します。唾液中に含まれるABH型物質は、亜型個体では赤血球上の抗原が少ないのと同様にABH型物質も少なくなり、亜型と確定するための一つの特徴と位置づけられてきました。また、造血幹細胞移植を行い、仮に血液型が変わっても唾液中の型物質は生涯変わりません。そのため、移植歴があり本来の血液型を推定したい場合にも唾液検査を行うこともあります。しかし、唾液中の型物質量には個体差があります。また、分泌型・非分泌型でも異なります。亜型個体の場合はさらに少なくなります。ここでは、ABO亜型個体の唾液中のA,B型物質量の(はてな?)についてシェアしたいと思います。

 通常、唾液検査(唾液中の型物質の検査)は適度に希釈した既知の抗A又は抗Bと被検唾液を用いた凝集抑制試験(試験管法)で検査を行います。そのため、唾液中の型物質の量的な違いを詳細に比較することはできません。どちらかと言えば、型物質があるかないか、多いか少ないか程度を確認するための検査です。ABO精査においては、この程度の情報量で十分です。唾液検査の概要については、「#004:唾液中のABH型物質の(はてな?)」、「#092:唾液検査に使用可能なモノクロ抗A、抗Bの(はてな?)」をご覧下さい。

 今回シェアする内容は、通常の表現型個体と亜型個体、ABH分泌型個体と非分泌型個体の唾液中の型物質量がどの程度異なるか、また、通常実施している血清学では、どの程度まで少ない型物質を検出することが出来るか、といった内容です。

 唾液中の型物質を客観的(定量的)に測定するために、A型物質検出用として30例、B型物質検出用として49例の表現型の異なる個体の唾液を用いて、EIA法による測定を行いました。EIA法といっても、原理は通常実施している試験管法による検査と同じです。概要を簡単に説明すると、平底のマイクロプレートに被検唾液を固相し、そこに適度に希釈した抗A又は抗Bを感作します。その後、洗浄し、型物質と反応していない余分な抗体を除去します。HRP標識した抗マウスIgM(二次抗体)で架橋後、洗浄し、発色試薬を加えて発色後に吸光度を測定するという原理です。例えば、A型個体の唾液の場合は、抗Aを加えた方には発色が起こりますが、抗Bを加えた方は発色しない、というロジックになります。この方法で吸光度を測定した結果が[SL.1、SL.2]となります。()内の数字は検討数であり、その平均値をプロットしています。

 この結果で分かるように、A1型個体の唾液中のA型物質を基準に比較すると、基本的には分泌型のAh、A1B、A2B、cisA2B3などでは同程度A型物質が検出されます。一方、分泌型であってもA3、A3BやA1型の非分泌型個体では半分程度まで低下します。また、亜型で非分泌型になると検出限界以下まで低下します。B型物質の方も通常のB型を基準にすると、B(A)、Bm、Bh、A1B、A1BmのB型物質は同等レベルであることがわかります。A型同様に、B3以下の亜型や非分泌型になると、顕著に型物質の検出が困難になります。グレー塗りした部分は、血清学(凝集抑制試験)で検出することが難しい範囲です。吸光度が0.3~0.5付近は、唾液中の型物質とよく反応する抗体(抗A、抗B)を用いて、最適な希釈倍率の条件下で検査を行った際には検出することが可能です。しかしながら、この範囲の微量な型物質を検出するには、「#092:唾液検査に使用可能なモノクロ抗A、抗Bの(はてな?)」で記載したとおり、使用する抗体を吟味する必要があり一筋縄ではいきません。従って、教本等に記載されている手順通りにやっても唾液中の型物質はおそらく検出できないことの方が多いと考えられます。

 この結果からもわかるとおり、通常の表現型であれば、たとえ非分泌型であっても型物質は検出が可能です。この理由は日本人の非分泌型の殆どがSe遺伝子のミスセンス変異(SewSe遺伝子の変異型で約40%の活性がある)であり、不活性のse(非分泌型)遺伝子は5%程度だからです。従って、通常の表現型個体や血液型キメラ、造血幹細胞移植歴のある患者さん本来の血液型を調べたいという場合はそれほど微妙な結果が出ることはありません。一方、亜型個体では抗原量の程度に相関するような関係で唾液中の型物質は少なくなります(Bm型だけは例外)。とくに非分泌型の場合は、検出できないことの方が多いと思います。また、cisA2B3については、オモテ検査でAは通常に判定され、Bが弱い事で気がつく亜型ですが、唾液検査でも同様に、A型物質は容易に検出可能ですが、B型物質は殆ど検出できないのが特徴です。このあたりが、亜型の決定は赤血球抗原量と唾液中の型物質量から決定する、という考えの由縁なのかもしれません。

 

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