血液型検査のサポートBlog

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#083:Jk(a-b-)のまれな血液型を推測する2M尿素の活用の(はてな?)

 Jk(a-b-)型はKidd血液型のまれな血液型(表現型)です。日本人では5万に1人程度の検出頻度です。Jk(a-b-)型はポリネシア人(数百人に1人)以外では世界的にもまれな血液型です。通常、まれな血液型の判明は抗体保有者から検出されるか、特異抗体による抗原スクリーニング検査又は多数検体を用いた遺伝子タイピングによって検出されます。ここでは、Jk(a-b-)のまれな血液型を推測する2M尿素の活用の(はてな?)についてシェアしたいと思います。

 Jk(a-b-)が疑われる殆どのケースは高頻度抗原に対する抗体である抗Jk3が検出されて、その確認のためにKidd抗原の精査を行うのが順番だと思います。まずは抗Jka、抗Jkbによる間接抗グロブリン試験を行います。そこで陰性になった場合は追加で抗Jk3(Kidd血液型の高頻度抗原に対する抗体)による反応を観察しますが、通常抗Jk3を保有している施設は少ないので、抗Jkaと抗Jkbで吸着解離試験を行い、赤血球上の抗原の有無を調べるのが現実的だと思います。それでも陰性の場合に血清学的にはJk(a-b-)型と判定すると思います。さらに深掘りする際には、遺伝子タイピングでnull遺伝子の組み合わせ(JKnull/JKnullのタイプ)であること確認することになりますが、これにはある程度時間を要することになります。

 ここでは、通常の検査室でもある程度Jk(a-b-)型の確認ができる方法をシェアします。これは、Kidd糖蛋白の機能を活用した方法です。Kidd糖蛋白は尿素の輸送体であり、2Mの尿素溶液中では1分程度で尿素が取り込まれて溶血を生じます。一方、Jk(a-b-)型の赤血球では、尿素の拡散能力が低下しているため、溶血するまでに時間がかかります。SL.1]には、その実験の様子を示しています。3本の試験管を準備し、左から、水道水、PBS、2M尿素溶液を2滴ずつ試験管に入れます。その後、PBSで3%程度に調製した被検赤血球を1滴ずつ3本の試験管へ滴下します。左はKidd血液型が通常の表現型の赤血球、右側3本がJk(a-b-)型の赤血球です。通常の赤血球はわずか1分で水道水と同様に2M尿素溶液でも溶血が観察されます。一方、右側のJk(a-b-)型赤血球では水道水を入れた試験管は溶血しますが、2M尿素溶液はPBSと同様に溶血が観察されません。この溶血の有無によって、Kidd血液型がJk(a-b-)型である可能性が推測できるということです。遺伝子タイピングは特定の施設でしか実施できませんが、この方法であれば、特殊な機器も必要ないことからJk(a-b-)型が疑われた際に、抗Jka、抗Jkbの吸着解離試験と併用することで、かなりの確率でJk(a-b-)型を同定することが可能となります。

 ここで、Jk(a-b-)又はIn(Jk)を疑った例について2M尿素による溶血実験を行い、Jk(a-b-)型とは、ちょっと違う、と判断した例についてシェアします。因みにIn(Jk)は吸着解離試験のみで抗原が確認される稀な表現型です。血清学では一見Jk(a-b-)に見えてきます。[SL.2]に示した②の例が今回の対象の検体です(①はJk(a-b-)型、②は対象検体、③はKidd通常の表現型)。①と③は想定内の反応が観察されましたが、②の対象検体は、初めの1分程度までは溶血がありませんでしたが、徐々に溶血しました。また、血清学の反応は、抗Jkbによる吸着解離試験で解離液から抗Jkbが確認されましたので、赤血球上に微妙にJkb抗原が存在することが示唆されました。2M尿素による溶血実験においてもJk(a-b-)型より溶血が早いこと、しかし通常の表現型よりは溶血するのが遅い結果でした。この現象を解明するために遺伝子解析を実施した結果、この検体は、JK*bweak/Jknullであることが判明しました。つまり、Jkb抗原を弱く発現する遺伝子と、null型遺伝子のヘテロ接合でした。遺伝子解析の内容はさておき、Kidd糖蛋白量と2M尿素による溶血実験は、単純な検査でありながら、その特徴を反映しある程度予測された結果になっているということです。従って、Jk(a-b-)型やそれに類似の表現型を疑った場合は、吸着解離試験などの血清学精査とともに2M尿素による溶血実験は有用であるということです。

 

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