血液型検査のサポートBlog

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#082:Kidd血液型のJka抗原量低下の(はてな?)

 Kidd血液型は、第18番染色体長腕に存在するJK遺伝子によってコードされたKidd糖蛋白上に抗原が存在します。JK遺伝子は11個のエキソンから成り、エキソン4の3末端側からエキソン11が蛋白コード領域となります。表現型はJk(a-b+)、Jk(a-b+)、Jk(a+b+)が多型性であり、Jk(a-b-)はまれな血液型となります。ここでは、Kidd血液型のJka抗原量低下の(はてな?)についてシェアしたいと思います。

 JK遺伝子は、Jka抗原をコードするJK*AとJkb抗原をコードするJK*Bを基本構造とし、それぞれの遺伝子に変異があるため抗原量が低下するものやnull型になるものが報告されています。ISBTのリストには、Jkaの抗原が低下する遺伝子変異は11種類(JK*01W.01~11)、Jkbの抗原が低下する遺伝子変異は6種類(JK*02W.01~06)、JK*Aの由来のnull遺伝子が21種類、JK*Bの由来のnull遺伝子が20種類あります。これらの遺伝子変異の多くはミスセンス変異が多く、その他にフレームシフト、エキソンスキップによるものが報告されています。通常、JKA/JKAの表現型はJk(a+b-)であり、JKA/JKBはJk(a+b+)、JKB/JKBはJk(a-b+)となります。また、null遺伝子同士の組み合わせ(null/null)になった場合にJk(a-b-)のまれな血液型になります[SL.1]。

JkaとJkbの抗原の違いは、838番目の一塩基の違いであり、838番目の塩基がG(グアニン)であればJka、A(アデニン)であればJkbとなります[SL.2]。この一塩基置換によって280番目のアミノ酸はAsp280Asnの違いを生じます。また、130番目の塩基置換によって抗原量の低下を生じることが分かっています。JKA及びJKB遺伝子は、ともに130番目の塩基はG(グアニン)ですが、これがA(アデニン)に塩基置換した個体では、抗原量が25~50%低下することが知られています。この変異は白人に比べて日本人では顕著に高いことが知られています。そしてこの変異はJKA遺伝子側に多く、日本人のJKA遺伝子の約80%がJKA*130Aという報告もあります(JKB*130Aはわずか1%以下)。

 これによって日常検査にどのような影響を生じるかというと、日本人由来のパネル赤血球や交差適合試験では、Jk(a+b+)のヘテロ接合赤血球のJka抗原がJKA*130Aの場合、被検者が保有する抗Jkaの抗体が弱い場合は、検査法によっては陰性となるということです。そもそも抗Jkaや抗Jkbは、抗Eや抗Diaのように強い抗体が検出されることは稀であり、抗体価が低く短期間に検出感度以下になる特徴がある抗体です。従って、抗Jkaを同定する際には、複数例のJk(a+b-)型(ホモ接合型赤血球)との反応を観察することと白人由来の市販品パネル赤血球を使用することが見逃さない策となります。また検査方法もPEG-IATが現時点では検出感度が高い検査法であり、さらに感度を上げたい場合は、酵素(ficin等)処理した赤血球を用いてPEG-IATを実施することで抗原低下した赤血球でも抗Jkaを確実に検出することが可能です。PEG-IATが陰性でLISS-IATでのみ抗Jkaの特異性が観察される場合は、少し注意が必要です。というのも市販品のLISS溶液に含まれる保存剤(パラベン)に対する抗体は、抗Jkaの特異性を示すことが知られています。LISS-IATは多特異抗体を使用することで補体結合性の抗体検出には優れていますが、赤血球の抗体であれば、LISS-IATで検出される抗体はもれなくPEG-IATでも検出されますので、LISS-IATだけで特異性が出る場合は騙されないように注意が必要です。

 血液型の抗体の中には、ホモ・ヘテロで顕著に凝集強度が異なる場合があり、量的効果として説明されていますが、抗Jkaや抗Jkbも量的効果を考慮しなければならない抗体の代表例ですが、それに加えてJKA*130Aの影響によってJk(a+b-)においてもヘテロ接合と同じ強さの反応が出る場合もあることを知っておく必要があります。従って、抗体同定時には複数例の赤血球との反応を観察することが重要ということになります。

 

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