血液型検査のサポートBlog

血液型検査(輸血検査)で生じる悩みや疑問(はてな?)をサポートする医療従事者向けのBlogです。

#084:高力価冷式自己抗体の吸着操作の(はてな?)

 冷式抗体とは低温相で最も強い反応を示す抗体の総称であり、主にIgM性の抗体です。また、自己赤血球とも反応する抗体は冷式自己抗体と呼び、代表例である抗Iや抗HIは日常検査でも遭遇します。また、抗I、抗HI以外に血液型特異性のないpan-reactiveな反応性を示す自己抗体のケースもあります。通常pan-reactiveな抗体は温式自己抗体として検出されるIgG性の抗体ですが、一部はIgM性の自己抗体も存在します。ここでは、高力価冷式自己抗体の吸着操作の(はてな?)についてシェアしたいと思います。

 冷式抗体に関して押さえておきたいポイントとして、抗IはABO型に関係なく自己赤血球を含めてABO同型又はO型の同種赤血球と一様に凝集が観察されます。一方、抗HIは主にAB型やA型個体から比較的多く検出され、O型赤血球と強く反応する抗体です。抗HIは本質的には抗Iの一種です。冷式抗体に関する記事は、「#011:冷式抗体保有時のABOウラ検査の(はてな?)」や「#029:抗I、抗HI保有者のABOウラ検査の(はてな?)」を参考にご覧ください。

 冷式自己抗体が存在する血漿(血清)ではABOウラ検査が全て陽性となり、O型以外ではABO血液型判定においてオモテ・ウラ不一致になること、冷式自己抗体にマスクされて他の低温反応性の抗体(抗M、抗P1、抗Lea、抗Lebなど)の検出ができなくなります。臨床的意義のあるIgG性抗体については血清のDTT処理や反応増強剤無添加-間接抗グロブリン試験で対処することが可能です。従って、冷式抗体が存在した際に一番厄介になるのはABOウラ検査だと思います。

 このようなケースでは、通常冷式自己抗体を自己赤血球又は血液型が既知の同種赤血球を用いて吸着操作し、吸着上清を用いてABOウラ検査や不規則抗体同定を行います。しかし、抗体価がSal法で16倍以上の場合、一回の吸着操作では完全に除去できません。また、256倍以上の高力価抗体の場合は数回の吸着操作が必要となります。そのため、高力価抗体を効率よく吸着するためには、酵素処理した赤血球沈渣で吸着操作を行うことがあります。未処理赤血球で吸着するよりも多くの抗体を吸着できますが、デメリットもあります。

 下の写真は、Sal法(22℃)で1,024倍程度(4℃で8,000倍以上)ある高力価冷式自己抗体を酵素(ficin)処理赤血球(被検者と同じ表現型のO型)で吸着した例ですが、被検者血漿を混ぜた直後に凝集が起きて、数分後には血餅のような凝集になります。遠心後、上清を次の吸着用赤血球(酵素処理赤血球)の試験管に入れても、直ぐに凝集が起こり、4~5回程度この操作を繰り返すことで冷式自己抗体もある程度除去することが可能ですが、最終吸着上清でABOウラ検査を実施すると、期待した反応が出ない(A1型及びB型赤血球と陰性)ことが時々あります。この現象は、A型の抗BやB型の抗A(規則抗体)が高力価冷式自己抗体の吸着時に非特異的に吸着されてしまうためです。高力価の抗I保有時に同種抗体が一緒に吸着されてしまう現象を「松橋・緒方現象」として以前は教科書にも記載されていました。この現象は抗Iだけではなく、高力価の抗体が赤血球に結合する際に別の特異性を持つ抗体が一緒に吸着されてしまう現象です。身近な例でいうと、同種抗体の抗Eと温式自己抗体を保有する被検者において、DAT陽性の赤血球解離液から抗Eが検出される現象です。被検者はE-型であるため理論的には自己赤血球には吸着されないはずですが、自己抗体が高力価の場合は一緒に取り込まれて非特異的に吸着されてしまう場合があります。

 酵素処理した赤血球で吸着することは、効率よく冷式自己抗体を吸着除去できますが、酵素処理によって多くの抗体が瞬時に赤血球に結合するため、高力価抗体を保有した血漿(血清)では他の抗体も巻き込むこと、また、吸着を数回実施すると、例えO型赤血球で吸着しても抗A又は抗Bが非特異的に吸着される場合があります。

では、このような高力価冷式自己抗体を保有した患者のABOウラ検査をどのように実施するかという問題ですが、、、まずは上記のような吸着操作を実施し吸着上清で抗A、抗Bが消失してしまう場合は、次の方法として、最初(一回目)の吸着は酵素処理した2本(別々の試験管)のO型赤血球で行います。2本の上清をそれぞれA型赤血球とB型赤血球の入った試験管へ移し2回目の吸着を行います。その後、吸着赤血球を洗浄し、熱解離すると解離液には抗A又は抗Bと冷式自己抗体が含まれることになります。次に、この解離液をそれぞれO型の赤血球で再度吸着することで冷式自己抗体は除去されます(抗A、抗Bがあれば上清に残る)。その上清で抗A、抗Bの確認を行うということです。少々手間がかかりますが、O型赤血球で5~6回吸着するよりも確実に抗A又は抗Bを検出することができる場合があります。

 

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