血液型検査のサポートBlog

血液型検査(輸血検査)で生じる悩みや疑問(はてな?)をサポートする医療従事者向けのBlogです。

#079:同一個体の血小板と赤血球上のA,B抗原量の相関についての(はてな?)

 ヒト血小板上には、HPA抗原及びHLAのクラスI抗原が存在しますが、微量ながらABH抗原も存在します。一部の個体では、血小板上のA、B抗原が高発現したHigh expresserと呼ばれる個体が、集団の中に10%程度存在することが知られています。しかし、同一個体から得られた血小板と赤血球のA,B抗原量について検討した報告例がほぼありません。従って、血小板上のA、B抗原が高発現している個体の赤血球抗原についても不明です。ここでは、同一個体の血小板と赤血球上のA,B抗原量の相関についての(はてな?)についてシェアしたいと思います。

 今回対象としたのは、血漿中の型物質量(多い、少ない)も考慮し、Lewis血液型の表現型を参考に選んだA型190例、B型197例、AB型91例、O型108例について検討し、同一個体から得られた血小板と赤血球のA抗原及びB抗原について相関関係を調べてみました。血小板及び赤血球のA,B抗原については、フローサイトメトリー(FCM)解析を行い、その平均蛍光強度(MFI)を算出し、S/N比で比較しました。S=Sample、N=陰性コントロールです。S/N比で比較するのは、測定日が異なっても(機器の感度調整が微妙に異なっても)、その検査バッチの陰性コントロール(N)を基準としてSample(S)の抗原量(多い少ない)を算出するため、測定日や測定機器の感度に影響を受けにくいメリットがあります。

SL.1]が結果となります。横軸は血小板の抗原量、縦軸が赤血球の抗原量と考えてください。数値が大きい程、抗原量が多いと考えてください。A抗原及びB抗原ともに血小板と赤血球の抗原量には相関はありませんでした。A、B抗原の分布をみると、赤血球はS/N比で60-150の間に存在していることが分かります。A抗原とB抗原の分布に大きな乖離はありません。しかし、血小板ではA抗原は収束していますが、B抗原は左右に広がり(S/N:2-18)、個体差のばらつきが大きいことが分かります。赤血球では抗原量が多いため、抗原量の違いがあるものの、その差が見えにくいということもあります。一方、血小板上のABH抗原はそもそも少ないため、少しの差でもばらつきがあるように見えているところもあります。

SL.2]はAB型を調べたものです。左がA抗原、右がB抗原の結果です。A抗原及びB抗原ともに血小板と赤血球の抗原量には相関はありませんでした。やはり、血小板のB抗原は左右に広がり、個体差のばらつきがあることが分かります。一方、赤血球においても、B抗原の一部は、S/N比で40付近にB抗原量が少ない検体が存在します。これはB型集団にはなかった集団です。AB型では、亜型というほど抗原量が低下していないものの、通常よりもB抗原量が少ない検体が数%存在します。こうした検体では、カラム凝集法などでは一部フリーセルが観察される原因となります。

 結果は示しませんが、ABH分泌型及び非分泌型によって血小板及び赤血球上のA,B抗原に変化はありませんでした。言い換えれば、ABH分泌型、非分泌型はあくまで唾液や血漿中の型物質量に関与し、血小板及び赤血球上の発現には関与しないということです。

今回の結果から、血小板と赤血球のA,B抗原には関連(相関)はないという結論です。

 

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