血液型検査のサポートBlog

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#078:ヒト血小板上のA,B抗原量の(はてな?)

 ヒト血小板上には、ヒト血小板特異抗原(HPA)及びHLAクラスI抗原が存在しています。その他にABH抗原(A抗原、B抗原)も存在しますが、その抗原量は赤血球抗原に比べて少ないため、例えば、A型患者(抗B保有)へB型血小板(B抗原)を輸血しても、レアな組み合わせ(患者の抗Bが高力価で、輸血した血小板B抗原が高発現)を除けば通常問題になることはありません。また、血小板上のA、B抗原量に関する知見の報告は多くありません。ここでは、ヒト血小板上のA,B抗原量の(はてな?)についてシェアしたいと思います。

 そもそも血小板上のABH抗原は、①血漿中に存在する血液型物質(A,B)が血小板上に付着し抗原性を有するケースと、②血小板糖タンパク上に発現する2つのパターンが知られています。様々な検討から殆どは②のケースがメインと考えられます。また、一部の個体では、血小板上のA、B抗原が高発現したHigh expresserと呼ばれる個体が集団の中に数7~8%程度存在することが海外の文献で報告されています。A、Bが高発現した血小板製剤を高力価抗A又は抗Bを保有した受血者へ輸血した場合、稀に輸血効果が得られない例も報告されています。このような例は、規則抗体の抗A又は抗Bが512倍~1,000倍以上の高力価抗体保有者で起こる可能性があります。しかし、このような高力価の抗A、抗Bを保有する個体は、殆どがO型であり、A型で高力価の抗B(又はB型で高力価の抗A)を保有する割合は、数千人に1例という頻度になります。詳細については、#006:ヒト血漿(血清)中の抗A、抗Bの(はてな?)をご覧下さい。従って、ABO異型血小板を輸血し、輸血した血小板が受血者の抗A、抗Bの影響で血小板数が増加しないというのは、現実的には非常に希少な例と考えられます。とはいえ、日本人を対象とした血小板上のA、B抗原量に関する調査報告例が少ないため、事実は把握しておく必要があります。そこで実際に血小板上のA,B抗原量の程度を調べてみました。

 今回対象としたのは、血漿中の型物質量(多い、少ない)も考慮し、Lewis血液型の表現型を参考に選んだA型190例、B型197例、AB型91例、O型108例について検討しました。Le(a+b-)は非分泌型のため血漿中にはABH型物質が少量しか存在しません。一方、Le(a-b+)は分泌型のため血漿中にはABH型物質が多量に存在します。この両者による抗原量の違いも検討しました。血小板上のA,B抗原量は、フローサイトメトリー(以下、FCM)を用いて、その平均蛍光強度(以下、MFI)を用いて比較しました。

 一次抗体は市販品の抗A及び抗B試薬を用いて感作し、二次抗体はFITC標識したマウス抗IgMを用いました。サンプルのMFI値をそのバッチのO型検体(これは陰性コントロールとなります)のMFI値で割り、S/N比を算出し比較しました。ABO遺伝子型は、全検体からゲノムDNAを抽出し、PCR-SSP法で遺伝子型を調べ遺伝子型と抗原量の関連についても調べました。今回は、便宜上、集団の抗原量の平均値(FCM解析の平均蛍光強度:MFI)を100%とし、150%以上の抗原発現が観察された個体、つまり1.5倍以上の抗原発現があった個体を高発現個体と定義しました。

 結果を[SL.1~SL.3]に示しますが、血小板上のA抗原が高発現している個体は、A型で8.4%、AB型で8.8%の個体が高発現個体と考えられました。一方、血小板上のB抗原が高発現している個体は、B型で12.1%、AB型で17.6%でした。A型及びB型個体では、遺伝子型がA/A及びB/Bのホモ接合型の場合、有意に高発現割合が高い傾向にあります。従って、血小板上のA,B抗原高発現に関与する重要な要素はABO遺伝子型であることが示唆される結果となりました。また、ABH分泌型、非分泌型の違いで抗原量に有意差が認められず、この結果からも血漿中に存在する血液型物質(A,B)が付着し抗原性を有するというのはごく僅かと考えられました[SL.4]。

 以上の結果から、受血者が高力価抗A又は抗Bを保有し、異型血小板製剤を輸血し、かつその血小板が高発現血小板である組み合わせになる確率は非常に低いことが分かります。しかし、稀にこのような原因で血小板製剤を輸血しても血小板数が増加しないことがあることも知っておく必要があります。

 

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