血液型検査のサポートBlog

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#072:IgG性の抗A、抗B抗体価測定の(はてな?)

 ABO不適合妊娠の場合やその他の血液型不適合妊娠が疑われ、母親が抗体を保有している際には移行抗体による児への影響を考慮して、母親が保有するIgG性抗体の抗体価を測定する場合があります。IgG性の抗体のみ保有する場合は、通常の間接抗グロブリン試験(以下、IAT)で抗体価を測定すればIgG性抗体の抗体価は容易に測定可能です。しかし、比較的強いIgM性抗体とIgG性抗体が混在するようなケース(抗A、抗B、抗M、抗Iなど)においては、IgM性抗体の干渉(持ち越し)によってIAT抗体価が若干高くなるため、DTT(dithiothreitol)試薬を使って血清中のIgM性抗体を破壊し、その後IATによるIgG性抗体の測定を行う必要があります。ここでは、IgG性の抗A、抗B抗体価測定の(はてな?)についてシェアしたいと思います。

 通常検出される不規則抗体においても、Sal法で反応する抗体(IgM)とIATで反応する抗体(IgG)が混在しているケースはありますが、臨床的意義のある抗体と分類されている抗体の多くはIATで反応するIgG性の抗体が主です(一部には産生初期のIgM性が混在していることもあり)。また、混在するIgM性の抗体はさほど強い抗体ではないため、IgG抗体価を測定する際には、反応増強剤無添加の60分加温IATを実施することでIgMの干渉なく、IgG性の抗体価を測定できます。Sal法(室温15分程度静置)による抗体価測定で4~8倍程度の場合は、60分加温IATを行えば問題ありません。また、冷式抗体の場合は37℃に加温することで活性が低下し、IAT判定への影響は少なくなります。

従って、日常検査においてIgG抗体価測定で多少苦慮するのは抗A、抗B抗体価の場合だと思います。この理由は、①抗A、抗Bは比較的強いIgM抗体が存在すること、②抗A、抗Bは反応温度(低温、37℃)にほぼ関係なく反応する抗体が存在する場合があること、③赤血球のA、B抗原が非常に多いこと、これらの背景の影響で手順通りに検査を行っても予期せぬ反応が出てきます。ここでいう予期せぬ反応とは、IgMとIgG抗体価がほぼ同じ程度になってしまうケースです。[SL.1]の例1及び例2のケースでは問題ありませんが、[SL.2]の例3の場合はDTT処理の際に少し工夫が必要です。

 ここで知っておきたいポイントは、10mM DTTで血清を処理した場合、全てのIgMが破壊されるワケではないということ、つまり10mM濃度で破壊される抗体は、せいぜいSalで32倍程度のIgM性抗体であることを知っておくべきです。例えば、256~512倍程度のIgM性抗体をDTT処理した際には、処理後の血清はIgM性抗体が完全に破壊されていないため、Sal法を実施した際には4+に出てきます(抗体価で見ると16~32倍)。この程度のIgM性抗体が残っていれば、当然のことながらIATに干渉してきます。従って、IgM抗体が128倍以上ありそうな場合は、血清を32倍程度になるまで希釈調整し、その血清を10mM DTTで処理することで完全にIgM性抗体を破壊することが出来ます。適度に希釈調整した血清を2倍連続希釈し、IAT判定を行います。最終的には血清の希釈倍数を乗じたものがIgG抗体価となります。[SL.3]にはその実例を示しました。また、[SL.4]には、IgMとIgGが混在した際の抗体価測定のイメージを示しました。

 また、抗A、抗B、抗Mのように赤血球上の抗原量が多い抗原に対する抗体の場合は、たとえIgG性抗体であっても、ある一定以上の抗体価があればSal法で凝集が観察されることも知っておく必要があります。このことを知らないと、IgM性抗体を完全に破壊したつもりなのにSal法で3+になり、何でだろう?、処理されていないのか?と判断に悩むことになります。

 一つの目安は、Sal:4+、IAT:4+のIgG抗体価を測定する場合は、まずはSal法で抗体価を測定し、32倍程度に希釈してからDTT処理を行い、その後IATを実施してIgG抗体価とする。Sal法で3+以下の場合は、抗体価として8倍以下だと思うので、そのまま60分加温IATで測定したものをIgG抗体価とする、というのが良いと思います。

抗Dをはじめ、抗E、抗Fyb、抗Jka、抗Diaなどでは、通常抗体価測定で悩むことはありませんが、抗A、抗B、抗M、抗Iなどの場合は、本質的なIgG抗体価を測定するために少し工夫が必要な場合があります。

 

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